上阪徹の"ブックライター"式ワークスタイル~外出編~
あえて非効率を選ぶ、ということ

上阪 徹 プロフィール
取材先に早く着いたときは車内で作業する

それがわかっていても車で移動するのは、理由がある。まずひとつは、コンディションを保ち、体力を温存しておきたい、ということだ。これは拙著『職業、ブックライター。』でも書いたことだが、実は文章を書く仕事をしながら、書く重要性というのは3割程度だと私は考えている。それ以上に重要なのは、書く素材を見つけてくることだ。

私の場合、そのための方法が、取材をすることであり、インタビューをすること。違う言い方をすれば、取材やインタビューに失敗したら、いい原稿は作れないと考えているのである。

したがって、私はとにかく細心の注意を払って取材やインタビューに向かう。例えば、真夏に徒歩と電車で移動するとなれば、大汗をかくのは確実。汗をダラダラ流し、ハンカチで拭き拭き、などというコンディションで、大事な取材やインタビューをしたくないのだ。取材を受けるほうも、相手がそんな状態では気分のいいものではない。快適なエアコンのきいた車で移動すれば、そうしたリスクは大きく軽減できる。

また、混雑する電車で移動したり、長時間を歩くとなれば、それなりに体力を消耗する。だが、私の仕事のアウトプッドは戻って原稿を書くことなのだ。取材の往復で疲れ果ててしまっていては、いい原稿など書けない。ゆったり座って好きな音楽を聴いたりして、リラックスムードで取材先を往復できれば、戻って原稿に向かう体力を温存しておける。気持ち良くパソコンに向かえる。

取材中の効率が悪くても、たくさんメモを取る

取材やインタビューでのこだわりといえば、前編でも少し触れた取材時に使うノートかもしれない。一般的にメモを取るノートはB5版のものや小さなメモパッド、あるいは手帳を使っている人が多いようだが、私は違う。A4版の大きなノートを使う。理由は2つ。ひとつは管理しやすいこと。日常的に使っている書類のほとんどはA4サイズ。バッグに入れるにも、書類を積み上げるにも、同じサイズのほうがやりやすい。そしてもうひとつが、メモの取りやすさである。

インタビューでは、大量の情報を私はメモする。後々テープをテキストに落としたものがもらえる場合の仕事もあるが、単発のインタビューでは基本それはない。となれば、できるだけ多くの情報をメモしておくに限る。これが、原稿を作るときの素材になるからだ。そして、たくさんのメモを取るには、大きな面のノートのほうが間違いなくやりやすい。

しかも、文字でぎっしり、という埋め方はしない。大きな文字でスペースを空けて書く。これには意味があり、終わった後にインタビューを思い出しながら再び眺めて、空いたスペースに書き込みを加えていくからだ。こうすることで、原稿の素材はさらに厚くできる。これは私のような仕事に限らずだが、話を聞きながらメモを取れる量は限られる。ならば、終わった後に思い出し、メモを補足しておくことは有効だ。このとき、ぎっしり文字で埋まっていたら、付け足すスペースがない。なので、ゆったりランダムに書くのだ。

付け足す要素はペンの色を変えて書くといい。何を後から足したか、すぐにわかるからである。急いで原稿を作らなければいけない場合などは、自分で録音データを聞いて、メモを書き足していくことも多い。このとき、すでにたくさんメモが取ってあれば、書き足すメモは少なくて済む。だから、取材中の効率は悪くても、とにかくたくさんメモを取る意味がある。