「左」と「右」の深層心理。エスカレーターを降りると、あなたはどっちに行く?

~理系と文系にまたがる「左右学」~
グルタミン酸ナトリウムの分子構造。左が左型。
埼玉大学名誉教授・埼玉学園大学経営学部教授
西山賢一先生

1943年生まれ、新潟県出身。京都大学理学部を卒業後、京都大学大学院、東京大学薬学部助手、講師などを経て、37歳の頃、生物物理学から経営システム科学に転身。現在は埼玉大学名誉教授、埼玉学園大学経営学部教授。

松尾貴史(以下、松尾) 左右学というのは、耳慣れない学問なのですが・・・。これは、西山賢一先生が提唱されたのですか?

西山賢一(以下、西山) 学問として「左右学」という名前をつけたのは私です。

松尾 つまるところ、左右学とはどういったものなのでしょうか?

西山 そうですね。左右をキーワードにして、いろんな分野を対角線でつないでいく学問でしょうか。ふつう、学問はどんどん細分化して細かくなりますよね。それではちょっと残念だなぁと。

せっかくいろんな成果があるのに、みながバラバラではもったいないので、なんとかつなげようと考えているんです。しかも、自然、生命、文化? 右と左はどこにでもありますので、どこから入ってもおもしろいと思うんです。

松尾 なるほど。

西山 たとえば、ビジネスの現場で見られる左右学ですが、最近、コンビニやショッピングセンターで、店内の棚の配列をどうするかという話題があがりました。コンビニサイズのお店ですと、だいたい左回り、反時計回りに客が流れるようにするのが自然なのだそうです。

松尾 店に入って、反時計回り。たしかにそうかもしれませんね。

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西山 人間が持っている習性を、深いところで捉えている例ですよね。もう一つ、みなさんはエスカレーターを降りたあと、左右どちらへ行く人が多いと思いますか?

松尾 エスカレーター・・・。うーん、個人的には、右に行く可能性が高いような。

岡村仁美アナウンサー(以下、岡村) 私はエスカレーターから降りたら、左に行く気がします。

西山 このことを詳しく調べた研究者がいまして。目的となる方向がある場合を除き、実は8割の人が、左に行くそうです。

松尾 そうなんですか! なんでだろう?

西山 その「なんでだろう?」に対する答えが謎だらけなのが、左右学の魅力的なところなんです(笑)

ミクロな世界、分子にも右型と左型がある

松尾 自然界にある左右の不思議について聞かせてください。ミクロな世界の左右の型、これはなんでしょうか?

西山 たとえば、成分表示表などでアミノ酸の表示をよく見ると、LやDと書いてある場合があります。

松尾 あ、うま味調味料に「Lグルタミン酸ナトリウム」とか書いてありますね。

西山 Lというのは左型という意味があります。右型はDと書きます。分子は原子からできていますよね。仮に原子が1本の指だと思っていただくと、指も含めた手そのものが分子です。厳密にはちょっと違いますが。

松尾 ええ。

西山 手には右手と左手がありますよね。それと同じで、分子も、まったく同じ原子からできていても、右型と左型があるんですね。

松尾 へぇー。

西山 そして、左右の型でまったく性質が異なる場合があるんです。たとえば、ハッカの主成分のメントール。

松尾 メントール、聞いたことあります。スースーするやつですよね。

西山 実は、スースーするのは左型だけなんです。

松尾 そうなんですか!

西山 右型のメントールもあるのですが、それはカビ臭くてとても使えません。左右の型で大違いなんです。

松尾 じゃあ、「Lグルタミン酸ナトリウム」の場合はどうなんですか?

西山 やはり、左型だとちゃんとしたうま味成分。右型は、味が悪くて使えないんです。

松尾岡村 へぇ~。

太陽系にあるすべての惑星の公転は左回り

西山 先ほどメントールで左型と右型があるといいましたが、実は、右型は人工的につくったものなんです。自然界に右型のメントールは存在しません。また、生物は徹底して左型しかつくらないんです。その理由はいまだに謎なのですが、大腸菌でもアメーバでも昆虫でも人間でも、生物は、みんな左型のアミノ酸しかつくらない。

松尾 でも、無理して右型をつくることはできると。

西山 ええ。正確には、右型をつくりたくてつくるというより、人工的につくると左型と右型が半々ずつになってしまう。

松尾 ほぉー。

西山 実は、これはノーベル賞にもつながる分野でして。2001年にノーベル化学賞を受賞された野依良治さんの研究テーマが、ある触媒を用いて、人工的に左型の分子だけをつくるという研究でした。

もし、将来、分子の左右の型を自由につくりわけることができれば、さまざまな産業で用いられますよね? だからビジネスチャンスにもつながると、非常に今、期待されている分野です。

松尾 ほぉ~。ミクロな話のついでにマクロな話も聞かせてください。天体のような大きなものでも、右と左が影響することって多いんですよね?

西山 ええ。まさに、左右学のもう一つの大きなテーマがそこにあります。たとえば、地球はクルクルと自転していますよね。そして地球を北極星のある北の方向から見ると、左回り、反時計回りで回っています。

松尾 そうですね。たしかに左回りです。

西山 これは地球だけじゃなくて、太陽系のすべての惑星は、北極星のほうから眺めるとみんな左回りなんです。

松尾 全部、同方向に回っているんですか! それって、太陽が最初にその方向に回っちゃったからとかそういうことですか?

西山 ええ、まさにそうなんです。だから回り方を調べると、太陽系の起源にまでつながるんですね。

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