第61回 エルヴィス・プレスリー(その三) カネは尽き、一人ぽっちになる・・・・・・クスリに頼った、肥満体の「悪夢」

福田 和也

エルヴィスは、ツアー中に読む本を数冊、用意していた。
一番、エルヴィスが興味をもっていたのが、トリノの聖骸布の調査をしたフランク・アダムズの『イエスの顔の科学的調査』だった。
午前二時十五分、エルヴィスは、歯が痛むから、薬を処方して貰ってくれ、と頼んだ。

夜間に営業している薬局でビリーは処方箋を貰った。その二時間後、エルヴィスはビリーに電話をかけてきた。

「ラケットボールをしないか?」

ビリーと妻・ジョーは既に床に入っていたが、身繕いをしてラケットボールのコートまで歩いていった。
雨は嫌いだとビリーが云った。

「問題ないよ、俺がなんとかするから」

エルヴィスは、おもむろに両手を挙げた。
そうして、雨は止んだ。

「信念を少しばかりもっていれば、雨ぐらいは止める事が出来る」

コートに着いたものの、三人とも草臥れていたのでろくにボールを打てず、しまいにはドッジボールになってしまった。
ラケットボールのコートからラウンジに入り、ウィリー・ネルソンの『雨の別離』の一節を、エルヴィスが弾いた。

最後の弔問客は、キャロライン・ケネディだった

ビリーが帰った後に、主治医のニック医師が処方した薬が届く。
エルヴィスは、午後七時には起きる、と当時のパートナーだったジンジャーに云ったという。ジンジャーは、母親にお休みを云うために、電話をかけた。

「エルヴィスは、元気かい」

ええ、と相槌をうち電話を切ったが、なんだか悪い予感がした。ジンジャーは、自分のバスルームで顔を洗い、化粧してから、エルヴィスのドアをノックしたという。
返事はなかった。
仕方がないので、力をこめて扉を押し開くと、エルヴィスが床に倒れていた。
金色のパジャマのズボンが足首まで下げられていた。吐瀉物のなかに、エルヴィスの顔は埋もれている。