
船木と戦った8ヵ月後の'01年2月、私は長男を交通事故で失ったんだ。この事故で大変なショックを受けたことが、引退の大きな理由だ。その後、一度は復帰を考えた。実は(エメリヤーエンコ・)ヒョードルと戦わないか、というオファーがあり、この実現に向けて動いていた。
ところが、試合の直前に足を痛めてしまった。結局ヒョードル戦は白紙となり、同時に肉体的な限界を感じるようになった。それで、引退を決意したんだ。
いまは戦いの舞台からは身を引いて、世界中を回って講演活動を行っているよ。
私は柔術を通じて、勝負論、精神論、心をコントロールする技術を身につけた。その経験やテクニックを一人でも多くの人に伝えたいと思っているんだ。
日本の格闘技のいまについても話しておこうか。残念ながらいまの総合格闘技の環境は、日本人格闘家にとっていいものとは言えない。UFC(アメリカを中心に流行している格闘技の大会)をはじめ、格闘技の主流は階級が細かく分類され、ラウンド毎の時間が短くなっている。
こうした試合では、技術よりフィジカルの強さがモノを言うんだ。日本の格闘家は、グラウンドなどの技術は優れているが、相手のミスをきっかけに勝負を仕掛けて勝つという傾向がある。それには長い時間が必要で、いまの3分や5分という短いラウンドでは不利なんだよ。
注目している選手かい?私の次男のクロン・グレイシーだ。彼は技術面でも精神面でも優秀なファイターだ。間もなく総合格闘技の試合でもデビューすると思うが、グレイシーの名に恥じない戦いを見せてくれるはずだ。グレイシー伝説はまだまだ続くよ。
「フライデー」2013年12月20日号より