これから楽しみな素敵な女性起業家の方に経営コンサルタント・多摩大学客員教授の本荘が話をうかがう本連載の第十回は、日本の伝統工芸職人の技を生かした0-6歳向け商品を提供する株式会社和えるの矢島里佳社長の登場です。
和えるは、ベビー・キッズ向けに新たにデザインした商品を、各地の伝統産業の職人の技でつくり、「0-6歳の伝統ブランドaeru」を展開している。砥部焼や大谷焼、山中漆器のこぼしにくい器、小石原焼のこぼしにくいコップ、漆塗りのはじめてのお箸、湧き水で漉いた和紙のボール、本藍染の産着やタオル、草木染のブランケットなどの商品は、オンラインとともに伊勢丹新宿本店、日本橋三越などで販売されている。安くはない(例えばこぼしにくいコップは4500円)が、一部の商品は一月中頃まで入荷待ちの人気ぶりだ。
伝統工芸の職人さんを訪ねると、「衰退しています」とみなさん口を揃えて言います。でも、伝統工芸品は同じ人間の手から生まれたとは思えないようなスゴイものです。私は生まれてからこういったものに触れる機会がほとんどありませんでしたが、「すごく好き!」と最初に出会ったときにとっても嬉しくなりました。
こんなに素敵なのだからもっとたくさんの人に伝統産業の魅力を伝えたいと思い、雑誌の連載を書きたいと考えました。そこで、20~40代の若手の職人さんを取材するという企画書を持ち込んで、実際に連載させていただけることになったのですが、記事だけでは、買い方が分からないし、売れる確証もないと感じるようになりました。
販売するにしても、そのままの商品では難しいと感じました。ここをもうちょっと…とか、柄をシンプルにしたら…とか、そのままで現代の人々の感性に合っているというものはなかなかありませんでした。「伝統産業だからいいものです」という販売の仕方ではなく、純粋にデザインが素敵で、機能的に優れているものを提供していかなければならないと感じました。
ある職人さんから、「子どもが通っている幼稚園のパパ、ママ友達から、小さい子ども向けの器がないと言われて、子ども向けの器を作った」というお話を伺いました。伝統産業品の多くは大人、それもご年配の方向けが多い市場でした。特に大手さんは子ども向けの市場は小さいため力を入れません。そこがすっぽり抜けていたんです。
私の中に、職人の技術のストック、そして"どうしてないのかな"という思いから描いたベビー・キッズ用の商品のストックがありました。この二つを「和える」事業をやろうと決めたのです。
いい技術に出会うと、それをそのまま売ろう、広めようとすることが多い。だが矢島さんは、そのままでなく、市場ニーズを見出して、技術と市場の掛け算で新たな事業を創造した。これはいかなる事業づくりにも当てはまる定石だ。