60年前、生まれた病院で「取り違え」貧しい他人の家庭で育った 男性の人生を考える

実の親は裕福だった いまはトラック運転手 いまさら「真実」が分かっても…
週刊現代 プロフィール

裁判所は、Aさんが仮に裕福な家庭に育っても「大学卒業の学歴を得ることができたかどうかは、必ずしも明らかでない」としながらも、慰謝料の額を3200万円と算出している。

この点に関して、『希望格差社会』などの著書がある中央大学文学部教授の山田昌弘氏は疑義を呈する。

「今回の判決は親の所得格差によって子供の教育が違って当然であり、親が貧乏なら子供に教育の機会がなくても仕方がないと言っているようなもの。お金持ちのほうが得なことがあるのは事実かもしれませんが、本来は親によって子供の教育に格差があること自体が問題なのです」

また、山田氏は「少子化を加速させかねない危険がある」とも指摘する。

「親が子供の高等教育まで面倒を見るべきだ、ということまで評価していることに疑問があります。今回の判決を見て、お金持ちじゃなければ子供にいい教育はできないのかと感じ、出産に二の足を踏む人が出てもおかしくありません」

また、今回の事件を受けて、取り違えは〝氷山の一角〟ではないか、という疑念も社会に生まれている。あなたも誰かから言われたことはないだろうか。たとえ冗談にせよ、「お前は誰に似たんだろう」と—。

東北大学名誉教授の赤石英氏(故人)が'73年に発表した調査によると、'57年から'71年まで全国で32件の取り違えがあったという。

'77年に沖縄県で発覚した6歳の女児取り違え事件を取材し『ねじれた絆』を著したノンフィクション作家の奥野修司氏はこう言う。

「赤石先生は生前、発表した数字の20倍(640件)は取り違え事例があるんじゃないかと言っていました。

取り違え事件の多発で、多くの産院では母子異床から母子同床になったのですが、最近の若い妊婦は産後ゆっくり一人で休みたいと望む傾向があり、母子異床に戻りつつあることに危機感を持つ産婦人科関係者もいます。管理が杜撰な産院であれば、今も取り違えの可能性はあると思います」