ある日、猛然とステーキを食べたくなることはあるでしょうか。私はある。
恐らく体の中で、タンパク質への欲求が猛烈に高まっているのだろう。ステーキが食べたくてたまらなくなるのだ。
そんな時は知っているフレンチの店へ行く。そこでお値打のステーキを食べ、まずは気持ちを収めるのである。
たとえば、西麻布の『ビストロ・ド・ラ・シテ』に行く。
創業40年、ビストロと名のつくレストランは日本に数多くあるが、この店ほどその名にふさわしい場所はない。
深紅のベンチシート、木のテーブル、ロートレックのポスターや古きパリの写真、ギシギシと音を立てる木の床、いい具合にくすみ、鈍い光を放つ壁や柱。そのすべてに、時間と客の愛着が染み込み、成熟した店だけが持つ安らぎがある。
座れば、さあ、今日もおいしいものをたらふく食うぞ、という気分が体の奥底から沸き上がる。
そこでまず頼むのは、パリジャンの好物、デジュネの定番「ステーク・フリット」(ステーキとフライドポテト)だ。
フランス人にとってのステーク・フリットは、日本人にとってのお茶漬けにも似て、頻繁に食べ、またそうでないと心が落ち着かないという料理なのだという。
まずはコンソメが運ばれるので、その滋味深い味わいで心を温めよう。次に運ばれるのは、塩と酸がきっちり効いた、ヴィネグレットソースをまとったサラダである。コイツをムシャムシャと食べて、胃袋を刺激する。・・・・・・この続きは『現代ビジネスブレイブ イノベーションマガジン』vol055(2014年12月4日配信)に収録されています。