2014.01.05

二宮清純レポート 最多勝2回の天才投手がついに引退
斉藤和巳 35歳元ソフトバンク投手
投げたくても投げられなかったあの日々が財産なんです

週刊現代 プロフィール

「どうしたらストライクが入るようになるんですか。教えてください」

武田はスリークォーターからの制球力に定評があった。投球術を駆使し、打たせてとるタイプだった。

「どうせストライクが入らないんだったら、キャッチャーミットからいったん、目を切ってみろ!」

武田は、そう指示した。ミットを目がけて投げろ、ならわかる。なぜ「ミットから目を切れ」なのか。

「これは僕が実際に経験したことなんです。もともと僕はストライクを投げるのには困らないピッチャーだったんですが、いったんミットから目を切るようにして、さらにコントロールがよくなった。自分のフォームに集中することができるようになったからです。だから和巳にも、そう教えました」

効果はてきめんだった。

振り返って、斉藤は言う。

「足を上げた時には、三塁後方のスタンドを漠然と見るようにしていました。それでフォームのバランスがよくなった。要するに目線の位置を一定にすることで真っすぐ立てるようになったんです。

ピッチャーにとって、一番マズイのは目線が揺れること。目線が揺れるとコントロールも乱れてしまう。その時の状態に応じて目線の角度を変え、バランスを取ることを覚えてからコントロールが安定し始めました。

武田さんには〝突っ込むのが早い〟とよく指摘されました。投げ急ぐクセを矯正するために〝左足が(地面に)着くまでは、ずっと三塁方向を見ていろ〟と。これによって悪い部分が改善されたんです」

恐るべきはベテランの知恵である。

覚悟の上だったとはいえ、右肩に不安を抱えながらフル回転した代償は高くついた。

'08年1月、斉藤は米ロサンゼルスの病院で2度目となる右肩の手術を受ける。リハビリはアリゾナで行った。

「この時ばかりは、もう不安を通り越して〝オレの人生、どうなってしまうんだろう?〟という気持ちでした……」

アリゾナでのリハビリ生活は半年以上に及んだ。

関連記事