セミは自然界の数学者。13年、17年周期で大発生! その驚きのワケとは・・・

~セミが身につけた生き残るための秘策~
2008年に発生した17年ゼミ
静岡大学創造科学技術大学院教授
吉村 仁先生

1954年生まれ、神奈川県出身。千葉大学理学部生物学科を卒業後、ブリティッシュコロンビア大学研究員などを経て、現在、静岡大学創造科学技術大学院教授。セミの生態から経済論まで幅広く研究

絶滅しない素数ゼミの謎

松尾貴史(以下、松尾) 吉村仁先生は、セミの生態について研究をしているとうかがいました。素朴な疑問なのですが、クマゼミやアブラゼミのように、素数ゼミという種類のセミがいるということですか?

吉村仁(以下、吉村) 素数ゼミとは、13年か、17年おきに大発生するセミのことで、正式には「周期ゼミ」といわれています。

松尾 周期ゼミ。

吉村 実は、たまたま僕が周期ゼミに関する本を『素数ゼミの謎』というタイトルで出したので、日本では素数ゼミという名前で知られるようになったのです。素数ゼミというのは、アメリカの中西部から東部、南部にかけてのみ発生する、特別なセミの仲間なんですね。13年のセミと17年のセミがいます。 

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2011年に撮影された"13年ゼミ"

松尾 13年のセミとは、つまり13年ごとに大発生するということですか?

吉村 そうです。何十万、何百万匹という親ゼミが一斉に出てきます。たとえば今年(2011年)は、ミズーリ州のセントルイスの街中で13年周期のセミが発生しました。今年発生したから13年後、つまり2024年まで待たないと次の大発生はない。

松尾岡村仁美アナウンサー(以下、岡村)ええーっ!

松尾 13年に一度とか、17年に一度出てくるということに、最初に気づいた人はすごいですね(笑)。

吉村 アメリカに開拓民が入ったときに、大発生するセミがいるということを知り、それがすぐさまイギリスに伝わったみたいなんですね。だから、進化論で有名なダーウィンの書いた書簡のなかにも、周期ゼミの記録があるんですよ。

松尾 えっ、そんな昔にもう気づかれていたんですか!

吉村 ええ。ただ、ほかのセミはまったくこんなことはしない。このセミだけが、13と17という素数のサイクルで一気に出てくるので、ものすごく疑問視されて、たくさんの数学者や生物学者がこの謎を解こうとしてきたんです。

松尾 でも、わからなかったんですね。

吉村 その当時は、わからなかったです。

2008年に発生した17年ゼミが羽化する様子

松尾 そもそも、セミって何年も地面の下にいて、大人になって地上に出てきたと思ったら、あっという間に死んじゃうじゃないですか。幼虫から成虫になり死ぬまで、つまり寿命が13年、17年ということなんですか?

吉村 そうです。

松尾 ええーっ! 長生きですね、虫にしては!

吉村 ええ。実は、セミの仲間は比較的長生きで、アブラゼミでも成虫になるまで7年ぐらいかかるんですね。なかでも、周期ゼミは極端に長いわけです。周期ゼミは実際2~3㎝のセミなので、それが成長するまで13年もかからない。そこで、幼虫は大きくなっても地中で冬を数えて待っているわけです、きっちり13年。

松尾 へぇー、きっちり。つまり、数の概念がこのセミの本能に入っているんですか?

吉村 そうですね、カウントしています。おそらく水の流れをカウントしているのだと思います。木の根の水は、冬の間は木が休眠するので止まるんです。セミの幼虫はその水が止まったことを数えているのだと思います。

松尾岡村 へぇ~。

吉村 ほかのセミは成長した順に地上に出るので、周期は決まってないんですね。ところが、このセミだけが、13年、17年という周期が決まっている。しかもその周期が素数だっていうね、非常に不思議なんです。

松尾 なぜ素数で、それもほかの素数ではなく13年と17年だけなんでしょう?

吉村 そうですね、なぜ素数かを考える前に、まず、なぜ周期を備えたかということですが、私たちは氷河期がきっかけではないかと考えました。地球に氷河期が来たことにより、セミたちの数が減って、幼虫も地面のなかで凍えてどんどん死んじゃうと。

だからといって、成長もできていないから地上に出てこられない。しかも出てきたときにはもうほとんど交尾相手がいない。そういう状況でなんとか出会ったセミたちが、いわばアダムとイブです。交尾して、子孫を残すのですが、地上に出るタイミングが、1年でも外れると、子孫がつながっていかないわけですよね。そこで出会いのために、周期性が進化したのだろうと。

松尾 つまり、交尾する相手がたくさんいる状況をつくるために、同じ周期でバッと現れてはパッとなりを潜めて、17年後にまたバッと出ると。

吉村 そうです。最初の頃は、15年とか16年ということもあったと思うんです。ところが、違う周期のセミ同士が出会ってしまうと、今度は交雑といって、子孫の周期がズレちゃうんですね。たとえば、17年と15年の子孫は16年になるかもしれない。

松尾 ええ。

吉村 周期がズレたセミは少数で地上に出てきちゃうんですね。そうするとまた出会いがなかったり、ほかの動物にやられたりして絶滅しちゃう。したがって、別の周期のセミに出会わないことが重要なのです。

岡村 ほぉー。

2008年に大発生した"17年ゼミ"の様子

吉村 そこで、僕が数理を使って考えたのが、出会い周期を考えたときに13と17という素数は、ほかの周期と出会わないんですね。めったに出会わない。それは、たとえば15年と18年だったら、90年おきという短い周期で出会うわけです。

松尾 つまり、約数が豊富だと、しょっちゅうその周期が重なってしまって、バランスが崩れる。

吉村 そうなんです。それで潰し合っちゃう。

岡村 セミ自身が見わけているわけじゃないんですか? 同じ種類のものを。

吉村 セミは鳴き声で見わけてはいます。たとえば、周期ゼミは「フィーフォ」と鳴くのですが、13年ゼミと17年ゼミはわずかに「フィーフォ」の高さが違うんです。それがどうも交雑を避けるように、ズレたみたいですね。

松尾 へぇ~、混ざらないように、そういう信号を出しているんですねー。

吉村 そうです。鳴き声で判断しているんですね。でもおもしろいのは、鳴き声だけで見極めていて、姿はどうでもいいんです。メスのセミは羽を鳴らすのですが、その音は僕らが手の指で鳴らすクリック音(フィンガースナップ音)にとてもよく似ているんです。

だから「フィーフォ」といったあとに、決まった秒数、0.1秒後ぐらいに、「フィーフォ」「パチッ」、「フィーフォ」「パチッ」と指を鳴らすと、鳴いてるオスは僕の手をメスだと思って飛んでくるんですよ。

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