矢野隆司 第1回 「『極道辻説法』の「和尚前白」はシマジさんがちゃっかり先生になり代わって書いていたんです」

島地 勝彦 プロフィール

矢野 あっ、そうだ。一つありました。

わたしがまだ高校生のころ、こころから感動して読んでいた週刊プレイボーイの人気連載、今東光大僧正の『極道辻説法』に毎回「和尚前白」という長いまえがきがあったんです。最近までそれは今先生自らお書きになったものとファンたちも信じていたんですが、じつはあれはシマジさんがちゃっかり先生になり代わって書いていたんです。

『慧相』という今東光研究誌のインタビューでわたしがそのことについて詰問して、やっと白状させました。

立木 それは大スクープだよ。シマジがおれにも漏らさなかった秘密の話だね。

セオ もうそのころから今東光先生に乗り移っていたんですか?

矢野 そういうことです。

立木 しかし、よくまあ大僧正が許したものだね。

シマジ どうしてそうなったのかはよく覚えていないんだが、どうしても頭にリードが欲しかったんだ。どうせなら「和尚前白」と書いてはじめたほうが読者の食いつきもいいだろうと考えたんだろうね。大僧正は「和尚前白」には何もいわなかったよ。

矢野 今先生はシマジさんを自分の孫、いや、分身のように可愛がっていたようですよ。

セオ しかしどうしてまた最近になってその謎が判明したんですか?

矢野 これにはしっかりした証拠物件があったんです。あのページをつくる時、シマジさんが読者の質問を読み上げてその場で今先生が即答する様子を録音して速記者に出すんですが、その速記録をみて原稿をまとめるのに、なんと当時からSF作家として有名だった式貴士、またの名をSM作家の蘭光生という名文家の清水さんにアンカーマンを頼んでいたんです。このあたりはシマジさんの凄いところなんですが。

シマジ そうだった。質問を読むのもすべて清水さんにお願いしていた。

矢野 その清水さんはわたしと気が合いまして仲良くしていただいたんですが、だいぶ経ってから『極道辻説法』の全速記録をわたしに送ってくれたんです。

シマジ あの当時はおれもセオと同じで目の前のことしか追っかけられないガサツ者で、資料として取っておくなんてことは不可能だった。清水さんはそれを見透かして矢野ちゃんのところに送ったんだと思うね。

矢野 段ボール1箱はありましたね。

立木 矢野さんは偉いね。それを丁寧に読んでみつけたんだ。