内田洋子 第4回 「本読みのシマジも唸る作家・内田洋子の数のレトリックと『私』の観察眼」

島地 勝彦 プロフィール

内田 小川さんもシマジさんのことを大好きになったようです。いまでも会うとよくシマジさんの話が出ます。

シマジ 小川君はいまでもヴェネツィアに住んでいるんですか?

内田 はい、住んでいますよ。

シマジ そのうち小川君に会いにヴェネツィアに行きたいなあ。彼はじつに誠実でチャーミングな青年です。

内田 有り難うございます。何かあれば彼にお声をおかけください。小川さんは、ヴェネツィアのことは50メートル感覚ですべて知り尽くしていらっしゃいますから。

立木 ところで『カサノバ回想録』ってそんなに面白いのか。

シマジ 退屈なところもあるけど、人類史上いちばんモテた男の物語だからね、そりゃ面白いよ。とくにおれが感心したのは、カサノバがこう書いているところだね。

「わたしは狂おしいほど多くの女たちを愛した。だが、わたしが何よりも深く愛したものは自由である」

そうそう、内田さんに会ったら訊こうと思っていたことを、いま突然思い出しました。イタリアではミケランジェロとかラファエロとかカラヴァッジョとか、天才画家は腐るほどいるけど、レオナルド・ダ・ヴィンチは別格のようですね。

内田 そうですね。イタリア人にとってダ・ヴィンチはまるで神さまみたいなものです。完璧な天才です。でもダ・ヴィンチの作品は未完成のものが多いんです。

シマジ どうしてダ・ヴィンチには未完成の作品が多いのか。塩野さんに訊いたことがあるんです。むかし塩野さんがイタリア人の前夫にそのことを尋ねたら、「天才ダ・ヴィンチはすでに頭のなかで完成した絵がみえてしまっているんだろう。だからもうこれ以上描かなくてもいいと思ったんだよ」といわれたそうです。

内田 いい得て妙ですね。わたしもそう思います。シマジさんはイタリアの画家で誰がお好きなんですか?

シマジ カラヴァッジョですね。2年前、カラヴァッジョの最後の作品が飾ってあるマルタ島の教会まで観に行きました。

内田 ローマの教会にも至る所にカラヴァッジョの絵が飾られています。