『データを紡いで社会につなぐ―デジタルアーカイブのつくり方』

デジタル人間が紙の本を書いた話
渡邉 英徳 プロフィール

僕はアーカイブが満足ゆく仕上がりになるまで、アイコンのサイズをドット単位で調整したり、地図やフキダシのちょっとした色遣いにこだわったりします。例えば、グーグルアースの表示角度をたった一度変えるだけで、見た目の印象がまったく変わってしまうのです。広島や長崎をはじめとする大切な記憶を伝えるために、どんな伝え方がふさわしいのか。一見ですべてが決まりますから、ひとつの妥協も許されません。

アーカイブそのもの、そしてさまざまな人の思いが文章として載せられたこの本についても、同じことが言えます。

「デジタル人間」の僕が「紙の本」を書いて、いちばん良かったこと。それは、僕がこれまでに考えてきたことや、出会った人々とのこころのつながりなど、「コンテンツだけでは伝わらない」であろうことを、はっきりと文章化できたことです。

僕は、これまで携わったプロジェクトを通して、すぐれた技術があったとしても、それだけでは人々に使ってもらえないという弱みを感じてきました。特に、広島の原爆を扱った「ヒロシマ・アーカイブ」のプロジェクトでは、技術ではなく「人」に由来するさまざまな困難にぶつかり、苦しい思いをしました。東日本大震災直後には、人々が不安におびえるなか、自分にいったい何ができるのかと、もがきました。こうした局面を切り抜けるためのちからとなったのは、コンテンツそのものではなく、人と人のつながりと信念の持つエネルギーでした。

この本は、さまざまなアーカイブのプロジェクトに込められた意図、プロジェクトに関わったさまざまな人々との出会い、そして、僕のまわりで起きたささやかなドラマを伝えるために書きました。お読みいただければ幸いです。

(わたなべ・ひでのり 首都大学東京准教授)

 
◆内容紹介
広島と長崎の原爆。東日本大震災。歴史や大災害の記憶のデータを、時代や国境を超えて伝える“新しいデジタルアーカイブ”とは。注目の“情報アーキテクト”が、現代におけるデータと社会の関わりを考える。
 
渡邉 英徳(わたなべ・ひでのり)
1974年生まれ。東京理科大学理工学部建築学科卒業、筑波大学大学院博士後期課程修了。博士(工学)。現在、首都大学東京システムデザイン学部准教授、京都大学地域研究統合情報センター客員准教授。情報デザイン、ネットワークデザイン、Webアートを研究する「情報アーキテクト」として活動。グーグルアースにさまざまな歴史資料とデータを重ね合わせた、新しいかたちのデジタルアーカイブの制作を進めている。「ツバル・ビジュアライゼーション・プロジェクト」「ナガサキ・アーカイブ」「ヒロシマ・アーカイブ」「東日本大震災アーカイブ」など。「沖縄平和学習アーカイブ」では総合監修を担当。