『データを紡いで社会につなぐ―デジタルアーカイブのつくり方』

デジタル人間が紙の本を書いた話
渡邉 英徳 プロフィール

僕が担ってきたのは、デジタルアーカイブの全体設計とディレクション、さらにグーグルアースにデータを重ねる作業です。つまり、設計者やディレクターともいえるし、職人ともいえます。こうした経験を経て、建築学科出身の僕は、建築家になぞらえた「情報アーキテクト」という肩書を名乗るようになりました。

デジタルアーカイブに掲載されている資料は、僕自身が集めたものではなく、資料館と新聞社、そして企業や団体などから提供されたものです。ツバルに住む人々のインタビュー記録と風景写真、原爆資料館に収蔵されている戦時下の写真資料、広島の若者たちがインタビューした被爆者の方々の証言映像などのデータです。そのなかには、先達によって受け継がれてきた写真資料や、いまも現地の人々によって集められつつある証言映像などが含まれています。

こうしたかけがえのない貴重な資料を、どうデザインすれば見やすく的確に伝えることができるのか。考え考えデータを処理し、グラフィカルに表現していきます。ときには、写真に写り込んでいる建物などを手がかりにして、どこで・どちらを向いて撮影されたものなのか特定する作業なども行ないます。これは、長い時間と根気を必要とする作業です。

さて、ここまでお読みいただいておわかりのように、僕はデジタル世界にどっぷり浸かって仕事をこなし、日常生活を送っています。手で文字を書くことはほとんどありません。メールやツイッターは酷使しますが、電話はほとんどしません。言ってみれば「デジタル人間」です。本書についても、さまざまなウェブサービスを活用して執筆作業を進めていきました。

たとえば原稿のテキストデータは、グーグル社のサービス「グーグル・ドキュメント」を使って作成しました。原稿はインターネットブラウザを使ってグーグル・ドキュメントに直接書き込み、編集者と共有します。編集者による赤字やコメントが入っていくようすをリアルタイムで確認でき、迅速なやりとりができます。

この本にはたくさんの関係者が登場しますが、ほとんどの方々とは原稿をグーグル・ドキュメントで共有して、事実関係の誤りや説明の足りないところについて、コメント欄に書き込んでいただくようにしました。指摘を受けたところはすぐに反映・修正を施し、再度チェックしていただきました。

しかし、いくらデジタルツールを駆使して書いたものとはいえ、最終的には「紙の本」になるわけです。たとえばスマートフォンのアプリのように、修正版を後からアップデートできるわけではありません。もちろん、ツイッターやブログなどに文章を書くときも、事実関係のチェックは慎重に行ないます。万全にしてから公開するように心がけています。とはいえ、ウェブ上の文章には、「いざとなればいつでも手を入れられる」という油断も起きがちです。

原稿をひと通り書き終わったあとからも、編集者からは、内容についての細かい確認事項が山のように届きます。ウェブの仕事にも確認作業はつきものですが、それとは少し違うたぐいのこまごましたチェック事項もあります。

そしていよいよ最終的なチェック作業は、印刷されたゲラに「手書きで」赤を入れるというものでした。最後は紙の本になるのですから、考えてみれば当然のことです。とはいえ、僕にとってはじつに新鮮なことでした。

こうした時間を過ごす中で、いつしか僕のなかで、本をつくる作業が、デジタルアーカイブづくりに重なっていきました。