[サッカー]
田崎健太「里内猛が描く日本の未来図Vol.13」

スポーツコミュニケーションズ

あっさりクリアした目標

 初戦で対戦するスペインは日本と同じ宿舎に泊まっていた。日本戦の後、ロンドンに行き、開会式に出るのだと話しているのが耳に入ってきた。
(何、余裕かましてんねん、絶対に潰してやる)
 里内は怒りを噛み殺した。日本にとってスペインは格上の優勝候補、負けて元々である。だが、彼らは明らかに気が緩んでいた。勝機は十分あった。

 スペイン戦の指示はごく簡単だった。
――スペインはカウンター攻撃を狙ってくるだろう。最終ラインの選手は前に蹴るだけでもいいから出来るだけシンプルにプレーすること。
――高い位置でのミスは構わない。しかし、自陣近くでミスはするな。
――(永井)謙佑、東(慶悟)をどんどん走らせろ。

 序盤からスペインに試合を支配されたが、最終ラインは崩されなかった。そして前半35分、右からのコーナーキックに大津祐樹が合わせて先制。前半終盤、スペインに退場者が出たこともあり、日本は1対0で逃げ切った。

 強豪に勝ったという喜びもあったが、まだ目標は達成していない。ホテルに選手を集めて、首脳陣は「結局、まだ何も終わっていない。次のモロッコ戦が大切だ」と選手たちに檄を飛ばした。モロッコもアフリカ予選2位の強敵だった。

 試合は後半39分、永井が清武弘嗣からラインの裏へ出たボールを拾ってディフェンダーを振り切り、得点。この1点を守って、1対0で勝利し、決勝トーナメント進出を決めた。第3試合のホンジュラス戦では連戦で疲弊していた選手を休ませて、出場機会の少なかったメンバーを優先して起用した。

 五輪代表はスタッフの数が限られているため、選手も裏方として動くことになる。控えに回った選手たちが率先してペットボトルの水を交換、試合に出ている選手のマッサージをしていた。それを横目で見ながら里内はいいチームになったと感じていた。

 ホンジュラス戦は0対0で引き分けたものの、決勝トーナメント1回戦でエジプトに3-0で快勝し、「五輪で6試合を戦う」ための条件をクリアした。

 しかし――。
 本当に強いチームと、“そこそこ強い”チームには差がある。日本は6試合のうち、もっとも肝心な最後の2試合で、その差を露呈してしまうことになる。

(つづく)

<田崎健太(たざき けんた)プロフィール>
 ノンフィクション作家。1968年3月13日京都市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、小学館に入社。『週刊ポスト』編集部などを経て、1999年末に退 社。著書に『cuba ユーウツな楽園』 (アミューズブックス)、『此処ではない何処かへ 広山望の挑戦』 (幻冬舎)、『ジーコジャパン11のブラジル流方程式』 (講談社プラスα文庫)、『W杯ビジネス30年戦争』 (新潮社)、『楽天が巨人に勝つ日−スポーツビジネス下克上−』 (学研新書)、『W杯に群がる男たち—巨大サッカービジネスの闇—』(新潮文庫)、『辺境遊記』(絵・下田昌克 英治出版)、『偶然完全 勝新太郎伝』 (講談社)。最新刊は『維新漂流 中田宏は何を見たのか』(集英社インターナショナル)。早稲田大学講師として『スポーツジャーナリズム論』『実践スポー ツジャーナリズム演習』を担当。早稲田大学スポーツ産業研究所招聘研究員。携帯サイト『二宮清純.com』にて「65億人のフットボール」を好評連載中 (毎月5日更新)。