薬のインターネット販売をめぐって、政府の産業競争力会議で民間議員を務めている楽天の三木谷浩史社長が民間議員の「辞表」を片手に、政府を相手取って裁判に訴える構えを示している。
これだけでも十分、大きな騒ぎだが、この話は単に「薬のネット販売」という小さな商売上の争いにとどまらない。安倍晋三政権が進める成長戦略の本質を問い質す事態になる可能性がある。
なぜなら、インターネットを使って効率的な経済社会を目指すのか、それとも既得権益を擁護するのか、という改革路線の核心に迫る内容を含んでいるからだ。
展開によっては、三木谷社長が代表理事を務める新経済連盟に象徴される「新しい起業家たち」を敵に回して、政権に打撃になりかねない。
まず、事態を簡単に整理しよう。
田村憲久厚生労働相が6日、記者会見で一般用医薬品(市販薬)のネット販売について新しいルールを導入する方針を発表した。
医師の処方箋が必要な医療用医薬品から切り替わった直後の市販薬は原則として3年間、ネット販売を認めず、副作用リスクがある劇薬もネット販売を認めない、という内容だ。
医療用から市販薬に切り替わる薬品は随時、出てくるが、現時点では育毛剤のリアップX5や痛み止めのロキソニンSなど23品目を数える。それに勃起障害改善薬のガラナポーンなど劇薬が5品目あって、計28品目だ。
政府は新しいルールに沿った薬事法改正案をいまの臨時国会に提出する方針だ。この改正案が成立すれば、消費者は医療用から切り替わったばかりの市販薬や劇薬をネットでは買えなくなる。
現状はどうかといえば、最高裁がことし1月に「ネット販売してはならない」という厚労省の省令について「薬事法の委任の範囲を逸脱しており違法」とする国敗訴の判決を出して以来、事実上、ネット販売は全面解禁状態になっている。