二宮寿朗「好ゲームの裏に、好ジャッジあり」

二宮 寿朗 プロフィール

あえて行った確認作業

 この日、審判団には無線インカムが採用されていた。つまり、線審とインカムでコミュニケーションを取った時点で、主審はオフサイドと確認できたはずである。ならば、もっと早くオフサイドを告げられたのではないか、という声も当然あるだろう。

 だが、無線インカムは通常のJリーグの試合ではまだ採用されおらず、ゼロックススーパーカップなどで試験的に導入されているだけだ。つまり、審判団も慣れ親しんでいるわけではないというのが実情だ。そのため、インカムだけで判断を下すことはできなかったのだろう、ナビスコカップの決勝、それも終了間際という重要な場面だったからこそ、確認に確認を重ねたのである

 後日、審判関係者に会ったときにこのジャッジの見解を聞いてみた。審判の連係という部分で特に評価していたのが、やはり主審と線審が2人で近づいて敢えてコミュニケーションを取ったことだった。審判関係者はこのように言った。
「通常、インカムを使用する場合、コミュニケーションを取って確認が出来ているならあらためて近寄って協議しなくてもいい。ただ、少々時間を掛けてオフサイドと判断するからには、浦和サポーターの気持ちも配慮しなければなりません。念には念を入れて確認するということに加えて、2人でしっかりと確認したんだぞという姿勢を周囲に見せてから、毅然とした態度を取ったように見えました。その意味でもいい連係、いい対応だったのではないでしょうか」

 結局、試合は1-0で柏レイソルが優勝した。試合後、幻のゴールのことを聞かれた興梠は表情を変えることなく言った。
「あれはオフサイドだと思いました。(審判の)いい判断だったと思います」。
 普通ならグチの一つでもこぼしたくなるところだが、浦和のエースは「いい判断」と逆に審判を称えた。私も取材の輪にいたが、決して皮肉などではなかった。負けたことは悔しくてたまらないはずであり、なおかつストライカーの“プライド”を考えるなら、「いい判断」だとはどうしても言いにくい。興梠の潔い発言もまた好ゲームの後味を良くした。

 浦和のミハイロ・ペトロヴィッチ監督は試合後、主審に「あれはオフサイドで間違いないですか?」と聞いたそうだ。すると主審は「間違いないです」と答えたという。

 審判団のこの日のすべてのジャッジが正しかったかはわからない。ナビスコカップの記念メダルが審判団に授与される際、レッズのサポーター席からは激しいブーイングが飛び交った。レッズサポーターをぬか喜びさせてしまったのも事実である。しかし、あの大舞台のあの最後の場面で、頭をクリアにして冷静にジャッジを下し、試合終了まで浦和と柏の素晴らしいファイトを引き出すことはできていた。審判の役割からして「当然」と言ってしまえばそれまでだが、レフェリング内容に何か不満があったなら、興梠もあんなふうに審判を称えなかったはずである。

 いずれにしても見ごたえのあったナビスコカップ決勝だった。好ゲームの裏に、好ジャッジがあったことを強調しておきたい。

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