撮影:立木義浩
<店主前曰>
ミラノ在住の内田洋子さんは、気鋭の大好きなエッセイストであり、親しい仲である。イタリア人に"じかあたり"の取材をして、達意な文章で紡がれた内田洋子ワールドの作品群は、まるで美しくして悲しい珠玉の短編小説を読まされるように、われわれがいままで知らなかったイタリア人のさまざまな人間模様をみせてくれ、じつに感動的である。
帰国したばかりだというのに、内田洋子さんは颯爽とサロン・ド・シマジ本店を訪れてきてくれた。
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シマジ タッチャン、セオから30分くらい遅れるという電話があったよ。何か重要な会議があるらしい。
立木 遠路はるばる内田さんがやってきてくれたというのに、このザマだ。しょーがねえやつだなあ。じゃあ、ネスプレッソはうちのアシスタントのヤマグチに淹れてもらおうか。
シマジ ヤマグチ、悪いな。
ヤマグチ いえいえ、それぐらいお安い御用です。
内田 これがウワサのネスプレッソマシンですか。毎日バールで美味しいエスプレッソが飲めるイタリアでも、ネスプレッソは画期的な成功を収めているようです。まずアッパークラスの医者や弁護士たちに火がつき、クリスマスプレゼントとして大好評ですよ。
シマジ 内田さん、のっけから嬉しいことをいってくれますね。
立木 そうだよね。イタリア人はむかしから自宅でエスプレッソを飲む習慣がある国民だよね。ネスプレッソを売り込むのはなかなか大変だったんじゃないか。