プロ野球特別読み物 人を育てる組織 広島カープのような手作りチームに幸あれ!

週刊現代 プロフィール

マエケンを見出した元広島スカウトの宮本洋二郎氏が、「広島スカウトの鉄則」をこう語る。

「ドラフトで競合する選手は、滅多に獲りにいきません。仮にAという選手に4球団が行くなら、力がそう変わらないBに行くことが多い。競合するくらいなら、違う有力候補を一本釣りして育てようという考えがあります」

選手を横取りされても大丈夫

実際、'06年の目玉は田中将大や堂上直倫といった甲子園を賑わした選手で、マエケンを指名したのは広島だけだった。

「実はプロ野球の世界で、カープのドラフトはある程度のリスペクトを得ているんです。カープは毎年他球団に横やりをいれず、波が立たないような指名をしてきた。だから他球団も広島が単独で狙っていると聞いたら、なるべく邪魔をしないように配慮するんですよ。マエケンも良い選手だと噂にはなっていましたが、さほど目立った存在ではなかった。じゃあ邪魔しないでおくか、といった感じでしたね」(在京球団スカウト)

将来性を買っての一本釣り、これは育成能力への自信があるからできる。

「育てた選手で勝つという意識は、他球団より高いと思います。誰が見てもいい選手はいい選手です。でも、カープの場合は、たとえば条件が5つあるとすれば、1つでも2つでも長けているものがあればいい。そこをまず伸ばして、他の部分は後から伸びればいいじゃないかという考えなんですね。さらに、他球団より選手を長い目で見る。他の球団ならとっくにクビのような選手でも、『まだわからん、わからん』と辛抱強く育てる風潮があります。

たとえば阪神へ移籍してしまった新井貴浩。彼は入団当時、不器用で守備がからっきしダメでした。だから打つことを集中的にやらせた。打てるようになったら今度は守備をやって、ようやくモノになった。わたしは何人もそういう選手たちを見てきましたよ」(前出・山崎氏)

広島は市民球団として成立したため、他の球団のように、スポンサーとなる親会社を持たない。そのため、高額な契約金で選手を獲ってくることも不可能だった。しかし一方で、だからこそ育成システムが定着したとも言える。ただ、それは'98年から15年連続Bクラスという暗黒時代の契機にもなった。

「広島には良い選手が育つ。しかもカネがないから簡単に横取りできるということが、球界の常識になりました。実際、高額な年俸を支払えない広島にとって選手を引き止める術はなく、川口和久、江藤智、金本知憲、新井貴浩など、主力選手が巨人や阪神といった金満球団に次々と獲られていきました」(広島担当記者)