説明が二転三転。しかも、回を重ねるごとに「真犯人」と名指しされる男の役職が上がり、ついには頭取にまで到達した。闇はどれだけ深いのか。メガバンクが迷走する中、ついに捜査当局も動き出した。
異常事態と言うほかない。信販会社オリコを通じた暴力団組員への融資事件に揺れるみずほ銀行だが、行内は収束に向けて一枚岩になるどころか、醜い内部抗争をいまだに続けている。
みずほFG(フィナンシャルグループ)社長でみずほ銀行頭取の佐藤康博氏が、
「問題の融資は'10年7月に発覚。取締役会やコンプライアンス委員会で報告があった。当時の西堀利頭取は把握していた」
と、元上司を「真犯人」と名指し。
「自分も会には出ていたので知り得る立場にはあったが、具体的な説明がなかったので、認識してなかった」
と、ちゃっかり自らは逃げをうった。一方、西堀氏もメディアに対して、
「コンプライアンスをきちっとするのは当然のこと。説明があろうがなかろうが、僕は徹底して(報告書の)中身を見ておりました」
と、佐藤氏を批判する。
新旧のトップが公の場で責任をなすりつけあう姿を見て、みずほの行員たちもさぞ、情けない思いをしているかと思えば、さにあらず。この事件を通して、いかに自分たちの派閥が優位に立つか計算しているというのが実情だろう。
背景にあるのは、みずほスタート時から脈々と続く、旧3行の争いだ。みずほ銀行は'02年、富士銀行、第一勧業銀行、日本興業銀行の統合により、誕生した。銀行というところは昔から派閥争いが盛んで、合併・統合が進んでからは、かつての出身行別に火花を散らしているのはドラマ『半沢直樹』でも描かれたとおり。なかでも、みずほは他行と比較しても突出して内部抗争が激しいことで知られる。
その理由を同行OBで作家の江上剛氏は分析する。
「三菱東京UFJなら三菱銀行、三井住友なら住友銀行と優劣がはっきりしているので、強いほうが力を発揮して一つにまとまるのですが、みずほは3銀行それぞれがスネに傷をもち、プライドが高いため、三すくみになってしまった」
東京センチュリーリース(第一勧銀系)、芙蓉総合リース(富士銀系)、興銀リース(興銀系)など、統合後も、それぞれが縄張り的な企業をみずほFG外に持ち続けていることも、その表れだという。
「本来なら縄張り的な企業も統合すべきですが、OBたちの出向先を考えるとできない。銀行の人事権の及ばないところで、牙城を守っているのです」(江上氏)
つまり、「みずほ」という看板を掲げてはいるものの、銀行マンにつきものの出向時には、少しでも居心地のいい出身行の関連会社に行きたいという互助会的構造が、みずほをいびつな形にしていると言える。
みずほでは、出身行の所在地にちなんで富士銀系を「大手町」、興銀系を「丸の内」、第一勧銀系を「内幸町」とする隠語があるというが、第一勧銀は他の2行出身者から、英語表記の「DKB」をもじって、デクノボウと呼ばれるというから、一枚岩とは程遠い。今回の事件でも、オリコは第一勧銀との関係が深かったので、「あれはデクノボウ案件だから」と嘲笑するムードさえあったという。