いま、日本で最高の役者かも
何でも面白くしちゃう香川照之(大和田常務)という男、その内実

週刊現代 プロフィール

「一声二振三男」。古来から、歌舞伎役者に必要なものは、まず口跡、次に演技としぐさ、三番目に男前、つまり外見の良さだと言われる。それだけ声が重要視されるのだ。

「舞台では、内緒話の台詞でもどならずに3階の上まで声を通さなければいけません。これが映像役者と歌舞伎役者の最大の違いで、もっとも難しい点でしょう」(エッセイスト・関容子氏)

これまでの役者としての経験と人並みならぬ努力を積む香川をもってしても越えられない、「声」の壁と周囲の批判。これらがいま、重くのしかかっている。『半沢直樹』の現場でも、役者仲間の森田順平氏にこんな苦悩を吐露している。

「撮影の合間、香川くんはたまに市川中車はしんどいとこぼしていた。これを語りだすと彼は止まらなくなるんです。お客さんは拍手してくれるけど、それは感動ではなく『頑張れ』という同情と激励の拍手なんだ、って、危機感を持ってやっているようでした」

歌舞伎役者としての至らなさを身に染みて感じながら挑む新たな世界。その重圧は相当なものであることがうかがえる。

だが、歌舞伎役者としての彼を批判する者ばかりではない。故・中村勘三郎は生前、こう語っていたという。前出の関容子氏がエピソードを明かす。

「平成中村座の公演をしていた去年の5月頃のことです。勘三郎さんに『香川さんが歌舞伎入りして、今後どうかしら?』と伺ったんです。すると勘三郎さんは『いやあ、いいと思うよ』とおっしゃった。『一本刀土俵入』とか『刺青奇偶』とかやったら脅威だよ、と。それだけ、香川さんの才能を認めておられました」

歌舞伎の初舞台の直前、香川とカラオケに行って悩みや苦しみを語り合った仲だという日本画家の千住博氏は、こうエールを送る。

「最近の凄みある憎まれ役の名優ぶりには、やったな、と本当に嬉しく思う。自分を磨き、成長を続ける過酷な姿を同時進行で見られて、大きな勇気をもらっています」

苦難を承知で飛び込んだ歌舞伎という新たな世界。歌舞伎界での市川中車が、俳優・香川照之と同じ評価を得ることは並大抵のことではないだろう。それでも勘三郎の言葉どおり、香川は、市川中車として周囲を圧倒させる演技をいつか見せてくれるに違いない。

「週刊現代」2013年10月12日号より