いま、日本で最高の役者かも
何でも面白くしちゃう香川照之(大和田常務)という男、その内実

週刊現代 プロフィール

でも、文句を言ったことも落ち込んだこともなかった。かといって演技のアドバイスをしようとすると、『ヒントはいいけど正解は言わないでくれ』という。相手の望むところを考えて、それを克服してやろうと思うんだろうね」

周囲を巻き込んでいく

現在の役者・香川照之の原点がここにある。粘り強く、たとえ相手が監督であっても自分が納得するやり方で答えを見つけ出す。その作法は、現在に至るまで変わっていない。

演技を指示する監督にとって、香川はある意味「面倒な存在」なのだ。前出の佐藤東弥氏は彼との仕事についてこう語る。

「演技指導をすると、『それはどういう怒りなの?』などととことん聞いてくる。納得させるのにものすごく時間はかかるけど、腑に落ちると素晴らしい演技で返してくる。彼の面倒くさいところが大好きなんです。作品を一緒に作り上げていく過程は、香川照之と闘っている感覚。彼との仕事は面白くてしょうがない」

役者としての最高のDNAを持ち、理屈ではない演技を覚えた香川は、その後、俳優としての頭角を現していった。

熟練の域に達すると、香川は役を「身体で覚える」ということもやってのけた。
正岡子規を演じたNHKドラマ『坂の上の雲』('09~'11年)は、彼の代表作の一つと言えるだろう。結核にかかり、34歳で夭折する子規になりきるために約17㎏減量した姿は、「子規が乗り移ったかのようだ」と評判になった。

当時チーフディレクターを務めた柴田岳志氏が語る。

「最期に向けて体重を落としていくというのは、香川さん本人が決めたんです。撮影期間中、次第に昼食も夕食もとらなくなり、空いた時間はジョギングをしていた。晩年の子規の演技は、鬼気迫るものがありましたね。撮影が終了したとき『お疲れさま』と香川さんを抱きしめたのですが、体が半分ほどになっているように感じて、ここまでやってくれたのかと感激しました」

映画『劔岳 点の記』では、山を熟知した案内人を演じ切るため、山に生きる人間の歩き方まで研究した。

「その役になりきるために、危険な領域に近づくのが好きな人なんです。『このへんでいいや』と役作りを適当にせず、徹底的に〝役を絞る〟ことに没頭するという意味で、無二の存在でしょう」(木村大作監督)

大和田常務役しかり、正岡子規役しかり、香川は脇役としての評価が高い。ときに誰よりも強烈な印象を残すため「主役を食う役者」とも言われるが、役者としての凄みは画面から見て取れるその存在感だけではない。香川がいる現場では、「役者同士の化学反応が起きる」のだという。