自動車用ガラスなどで世界トップ級の技術力とシェアを持つAGC旭硝子が「人財の見える化」に取り組んでいる。
旭硝子の本体およびグループ企業を世界で見渡して、どんなスキルや知識をもった人材がいるのかを把握してデーターベース化、国境や事業部門の枠を超えて人材や技術を組み合わせて新しいビジネスチャンスを創出していこうとする画期的な取り組みだ。
日本の大手電機メーカーではエンジニアが希望退職などによって大量リストラされてきたが、旭硝子の取組みは人材をどう活かしていくのかという視点で見るべきものがあり、筆者はその取り組みを取材して日本の企業が忘れた「経営の基本」を見る思いがした。
旭硝子は「人財の見える化」に2010年から取り組み始めた。ガラス、電子、化学の社内カンパニー制を敷いている同社は、社内カンパニーの壁を超えて技術や人材を結合させて新商品を開発して新たな顧客を開拓していくことが成長に欠かせないと考えている。
しかし、新たなビジネス領域に挑戦するために新しいプロジェクトを立ち上げようとしても、全社にどのような人材が存在しているのかを把握するシステムがなかった。
その課題をクリアするために、まず誰がどのようなスキルを持っているのかをデーターベース化する取り組みから始めた。そのデーターベースを「スキルマップ」と名付けた。
「スキルマップ」は人事システムの中に組み込んだ。1人が最大3つまで自分の専門分野を申告し、それを上司や「スキルリーダー」と呼ばれる各分野の第一人者が評価して5段階でランク付けする仕組みだ。
そのデータは、各カンパニーの責任者ら執行役員クラスの幹部以上に開示し、新規事業に取り組む際の人選に役立てられるようにした。
これまでは、新規事業に取り組む場合はプロジェクトリーダーが自分の周辺にいる知り合いを巻き込む形を取っていたが、高い成果を出していくためには、合理的かつ戦略的に人材を発掘して適材適所で起用していく仕組みが求められていた。
特に2008年に社長に就任した石村和彦氏がそうした人材起用方法を強く求めた。
石村氏はこう語る。
「人事部門は人事制度を構築することに力を入れていましたが、今後どのような事業を展開するかを考えて人材を採用・育成したり、異動させたりするかの発想に欠けていたので、それを改めるように経営者として強く求めました」