取材・文/平原 悟
―直木賞を受賞したことで、生活や環境になにか変化はありましたか?
取材依頼が劇的に増えましたね。対談相手も、これまでは同業者が中心でしたが、最近は異業種の方もいて、今までとは違った刺激を受けています。先日もaikoさんと対談しました。作品の中に彼女の歌を登場させたことがあるんですが、直木賞作家という肩書がもたらした出会いは本当に多いです。
―今作は受賞後第1作です。児童養護施設で暮らす子供を主人公にした理由は?
アイデア自体は1年以上前からありました。当時、子供が主人公の作品に触れる機会が多くて、自分もいつか挑戦したい、とぼんやり考えていたんです。一方で小さな子供が自殺するニュースを見て、『何者』を書く中で就活生特有だと思っていた「逃げ場がない感じ」や「たった一度のミスで人生がやり直せなくなる雰囲気」が、もっと下の世代にも広がっているんじゃないかと気づいて。僕ら世代がその雰囲気を伝染させているのかもしれない、と責任を感じたこともあって、子供たちが「逃げる」ことを選ぶ物語を書こうと思ったんです。