米国産天然ガスの価格と日本のエネルギーコスト

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文/ 野神隆之(JOGMEC 石油調査部上席エコノミスト)

米国産のシェールガスを含めた天然ガスを液化してLNGとして輸入すれば、日本のエネルギー価格が大幅に下落する、それも速やかに、という議論がある。現在、日本が輸入するLNG価格は原油価格に連動しており、米国内で取引される天然ガスの約5倍の価格となっている。従って今これを輸入すれば日本のエネルギー価格は大幅に下がるに違いない、という議論である。

しかしながら、物事はそう単純ではない。

現在、原油と米国産天然ガスの価格は大幅に乖離しているが、市場関係者の間では、将来的にこの価格差は縮小する、と考えられている。前回ご説明した通り、米国におけるシェールオイルの増産によって原油価格は将来的に下落していくと見られており、それに従って原油価格連動LNGの日本到着価格は、2020年前後に100万Btu当たり(1Btuは1ポンド=約450グラムの水を1華氏度引き上げるのに必要な熱量)14ドル程度になると見られている。

一方で、現在の米国の天然ガス価格では、シェールガスの開発・生産コストに見合わなくなっていることから、まず、その採算ラインに乗せるべく、価格が上昇せざるを得ない、という事情がある。さらに今後、技術的な面で開発・生産の難易度が上昇したり、パイプライン等の輸送インフラが整備されていないところで開発・生産を行わざるを得なくなったりすることから、コストがよりいっそう上昇する、といった展開が想定されている。

そのため、米国産の天然ガス価格は2025年前後には、100万Btu当たり7ドル程度に上昇していくと市場では認識されている。そして、米国産天然ガスに液化燃料費、液化施設使用料、タンカー運賃を加えると、日本着のLNG価格は100万Btu当たり14ドル程度となり、原油価格連動LNGと米国産天然ガスによるLNGの輸入価格に大きな差は生じない、ということになる。

このようなことから、米国のLNG輸出プロジェクトも他のガス産出国のLNG輸出プロジェクトとの競争に巻き込まれるため、米国からのLNG輸出には経済性の観点から自然とブレーキがかかってしまうのではないかと思われる。そして現在、米国等の市場関係者の間では、米国のLNG輸出量は2020年までに概ね4,500~6,000万トン程度になると見られている。

調達先の多様化、エネルギー源の分散化が必要

ただ、これが全量日本にやってくるわけではない。

米国発のLNGは欧州、インド、中国、韓国、日本等の輸入国に向け分散していくであろうから、実際に日本が輸入すると見られる量は1,000~1,500万トン程度になると推定される。2012年に日本が輸入したLNGは8,700万トンであるので、このうちの10~15%程度が米国産に置き換わる潜在性を秘めている、ということになる。

現在は米国産天然ガスをLNGにして輸入した方が原油価格連動LNGよりも4割程度安価である。ただ、米国産LNGの輸入による日本の総LNG輸入コスト引き下げ効果は5%前後(40%割引×米国産LNG輸入割合10~15%)ということなる。

この程度のコスト低減幅だと、為替がちょっと円安に振れてしまえばその効果は吹き飛んでしまう。また、前述のように、将来的に原油価格連動LNGと米国発のLNGの価格差が縮小する、ということであれば、為替の影響がなかったとしても5%というコスト低減すら達成できなくなってしまう。

従って、米国産LNG輸入が全く意味を持たない、というわけではないが、それだけを待っていれば日本のエネルギーコストが大きく下落する、という考え方は少々楽観的すぎる、と言えよう。

また、米国の天然ガス調達コストは、液化費用やタンカー運賃の分だけ輸入国よりも優位に立つわけで、そのため米国では天然ガスを原燃料とした化学産業等の製造業の競争力が強化されることになる。それはつまり、その分だけ日本国内の製造業が劣勢になる可能性を意味する。

日本としては今後、米国産のLNGに期待するだけではなく、日本企業が自ら天然ガス田を開発し、LNGとして日本に持ち込むことを含め、我が国の天然ガス調達先をさらに多様化していく必要がある。同時に、省エネルギー技術の開発や、石炭火力発電所の新増設(但し地球環境問題への配慮もあるため、この面では燃焼の高効率化で乗り切るということになろう)等、天然ガス以外のエネルギー源への分散化も忘れてはならない。

また、競争力維持のために日本の経済構造をどのように変えていくか、といったことを多面的に議論し、改革を速やかに実施してくことが肝要になろう。そういった意味では、米国のシェールガス革命は日本にとっては必ずしも大きな恩恵であるとは言えないのである。

野神隆之 (のがみ・たかゆき)
独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)石油調査部上席エコノミスト。早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。米国ペンシルバニア大学大学院修士課 程およびフランス国立石油研究所付属大学院(ENSPM)修士課程修了。通商産業省(現・経済産業省)資源エネルギー庁長官官房国際資源課(現・国際 課)、国際エネルギー機関(IEA)石油産業市場課等に勤務の後、石油公団企画調査部調査第一課長を経て、2004年より現職
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