[裏方NAVI]
原健介(日本体育大学駅伝部コンディショニングトレーナー)<後編>「“追い風”となった箱根の向かい風」

スポーツコミュニケーションズ

“勝つ”ことよりも“正確さ”

 あれから9カ月が経とうとしている。来月には出雲全日本大学選抜駅伝、11月には全日本大学駅伝と、いよいよ駅伝シーズンの到来だ。そんな中、別府監督が口を酸っぱくして言い続けていることがある。それは走りに関してでもなければ、“箱根連覇”という言葉でもない。
「ウォーミングアップやBCTをきちんとやるように!」
 耳にタコができるほど、毎日こればかりだという。

「ウォーミングアップでの体操やドリル、そしてBCTは朝、走る練習の前に行なわれますから、それらがきちんとできないということは、身体あるいは気持ちに問題があるという証拠なんです。『あれ、昨日までちゃんとできていたのに、どこか痛そうだな』とか『今日は集中できていないな』とか、選手の変化を汲み取ることができる。だから別府監督はウォーミングアップやBCTをやっている時、じっと選手の様子を見ているんです」

 今やBCTは選手の強化のみならず、指揮官にとっても選手を見る判断材料として重要なものとなっている。それはBCTがごまかしのない、正確さを追求したトレーニングだからこそである。正確さを追求したこだわりは、回数にもあらわれている。BCTでは、同じメニューを100回も200回もやることはない。基本的には1種目10回、姿勢をキープし続ける時にも30秒である。その理由を原はこう語る。

「例えば腕立てや腹筋を100回やろうとすれば、必ず途中でごまかそうとする。気持ちでは精一杯でも、身体は楽な方にいこうとしますからね。でも、10回なら1回から10回まで集中してやることができる。始まりから終わりまで、同じ姿勢や気持ちでやることが何より大切なんです。それは走りにもつながってくる。スタートした時と同じきれいなフォーム、高いモチベーションでゴールする。それが“ブレない走り”を生み出すんです」

 注目の箱根駅伝まで、既に残り3カ月。今度はどんな走りを見せてくれるのか。
「周りはどうしても連覇という目で見ていると思いますが、別府監督は『前回優勝したからって、連覇を狙おうなんて思わなくていい』と言うんです。『とにかくこれまで通り、正しいことをやり続けよう』と。僕もまったく同じ気持ちです」
 来年1月、BCTで鍛えられた“ブレない日体大”の姿が再び見られそうだ。

(おわり)

原健介(はら・けんすけ)
1970年10月6日、新潟県生まれ。日本体育大学卒業後、日本理療専門学校で、はり師・きゅう師・あん摩マッサージ指圧師の資格を取得。2009年、横 浜市に「はら治療院」を開業した。学生時代からトレーナーとして陸上部員のケアを担当。別府健至監督が就任した99年からチームの治療を始め、昨春からは コンディショニングトレーナーとしてBCTを指導している。

(文・写真/斎藤寿子)