辻秀一 第2回 「ごきげんな気がフローすれば、こころは揺らがず囚われず、自由でいられる」

島地 勝彦 プロフィール

〈 本番前に緊張してしまうのが悩みというピアニストが私のところにやってきました。彼女がどうやってごきげんをつくれるようになったのか、ご紹介しましょう。

練習ではうまく弾けるのに、発表会やコンクールになると緊張して、いつもの演奏ができないという彼女。本番前は、足がガタガタ震え、体が硬直してしまったのです。

「いつも練習で引っかかってしまうところはうまく弾けるだろうか。審査員は私の演奏をどう評価するだろうか」そんなことばかりが頭の中をぐるぐるし、緊張に拍車がかかってしまう。彼女は、私のメンタル・トレーニングを通して、心も演奏と一緒で、練習が大事だということをいちばんに感じたそうです。

「先生は、ごきげん道は、磨きつづける道とおっしゃっていましたが、まさにそうだなと思います。ずっと練習しつづけていると、知らない間に自分のものになって、意識しなくても自然にできるようになります。お箸の持ち方と一緒ですね」

私が彼女にお伝えした自分をごきげんにする方法はいくつかあります。意味づけは自分がつくりだしていると気づく。今に生きると考える。好きなことを考える。感情に気づくなど---。中でも彼女がいちばん驚いたと言っていたのは、「好きなことを考えると演奏がうまくいく」ということでした。

私が彼女にやってもらったのは、1回目はいつもどおりに演奏をする。2回目は、好きなことを考えてから演奏をするというトレーニングでした。

「1回目のときは、いつもひっかっかってしまうフレーズに気をつけて、技術面を注意して演奏していた感じでした。しかし2回目は、辻先生に『好きな食べ物は?』と聞かれ『カルボナーラ。濃厚だから大好きです』と答えたら、『笑顔になったね。その気分のまま演奏してみて』と言われました。

すると細かいことを気にせずのびのびと演奏できました。楽しいと感じながら演奏することができたのです。演奏を終えてみると、苦手意識が強かったフレーズも自然とできていたことに気づきました。私はびっくりしました。変えたことと言えば、好きな食べ物を答えて、ごきげんになったことだけだったのですから!」