『生き心地の良い町』この自殺率の低さには理由がある

 海部町から自殺の理由の低さを抽出できたとしても、それを他の自治体でそのまま活用できるかはわからない。先行研究がほとんど無いことが示すように、一部の専門家からすれば突っ込みどころが多い研究手法なのかもしれない。ただ、一方、それらは瑣末な問題にも映る。著者が指摘するように、自殺が少ない社会とは単純に考えれば「生き心地の良い」社会である。どのような社会に住みたいか、皆が心地よく感じる社会とはどういう社会かを考えることが第一歩である。そして、海部町の姿を生き生きと描いたことで、その一歩が踏み出されたのではないだろうか。

生き心地の良い町
 この自殺率の低さには理由(わけ)がある

  • 作者:岡 檀
  • 出版社:講談社
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内容紹介
徳島県南部の太平洋沿いにある小さな町、海部町(かいふちょう)(現海陽町)。
このありふれた田舎町が、全国でも極めて自殺率の低い「自殺“最"希少地域」であるとは、一見しただけではわかりようがない。この町の一体なにが、これほどまでに自殺の発生を抑えているというのだろう。
コミュニティと住民気質に鍵があると直感した著者は、四年間にわたる現地調査とデータ解析、精神医学から「日本むかしばなし」まで多様な領域を駆使しつつ、その謎解きに果敢に取り組む。
ゆるやかにつながる、「病」は市に出せ、“幸せ"でなくてもいい、損得勘定を馬鹿にしない、「野暮ラベル」の活用など、生きづらさを取り除いて共存しようとした先人たちの、時代を超えて守り伝えられてきた人生観と処世術が、次々とあぶり出されていく。