シェールオイルは世界の石油需給にどのような影響を及ぼしたか

アメリカのシェールオイル採掘現場 〔PHOTO〕gettyimages

文/ 野神隆之(JOGMEC 石油調査部上席エコノミスト)

シェールオイルが当初の市場の見込みを大幅に上回って増産されており、市場関係者の間で今後も増産されていくと見られるようになってきているということは、前々回述べた。では、シェールオイルは石油市場をどのように変化させたのか、ということについて見ていきたい。

シェールオイルが増産される以前の米国では原油の生産量が減少気味であり(同国の2000年代半ばの原油生産量は1990年代初頭の3分の2程度であった)、従って石油輸入量が将来的に増加すると見られていた。また、世界を見ても、非OPEC産油国の生産量は今後伸び悩む一方で、発展途上国の経済発展とともに石油需要が増加することから、結果として世界の石油供給に占めるOPEC産油国の占有率と市場支配力が上昇するものと予想されていた。

OPEC産油国は原油価格の高値安定を事実上の目的としていることから、原油価格は将来に向けて上昇傾向になるだろう、というのが2008年当時の市場関係者の見方であった。しかしながら、米国でシェールオイルが増産された結果、同国の原油生産量が大幅に跳ね上がり、現在では1989年以来の水準にまで戻っている。これに伴い、2000年代半ばにかけ増加基調であった米国の石油輸入量も減少傾向に転じている。

特にシェールオイルは、普通の製油所で処理するとガソリンや軽油を主に生産できるような比重の軽い「軽質原油」であることから、品質が類似する軽質原油を米国向けに輸出していたアリジェリアやナイジェリアといった産油国が影響を受けている。そして米国で受け入れられなくなった軽質原油は他の受け入れ先を求めるようになった。

その場合、距離的に言えばまず欧州消費国、ということになるであるが、欧州は債務危機に伴う経済低迷の問題を抱えており、2012年の石油需要も前年比で4%減少するなど不振であったため、ここでは米国で受け入れられなかった原油を吸収しきれなかった。そして、そのように余剰となった原油がどこに向かったかというと、アジア太平洋諸国であった。

例えば日本は2012年には、制裁を受けているイランや紛争状態であるスーダンからの原油輸入が減少している。その減少分は、サウジアラビア等の中東湾岸産油国や東南アジア諸国等からの輸入増加により相殺されているわけであるが、中でも目を引くのが、ガボンという西アフリカに位置する産油国からの輸入量が増加していることである。

また、韓国は、英国やノルウェーといった欧州の産油国から、中国についてもアンゴラやリビアといったアフリカの産油国から、それぞれ輸入を増加させている。

2020年の原油先物は1バレル当たり90ドル程度

このように、米国でシェールオイルが増産されたことにより、世界の石油貿易の流れが、全体として東側に寄り始めている。これは、前回指摘したとおり、石油については世界市場が形成されているためであり、それにより、米国での石油供給の増加が比較的速やかに世界市場に波及し石油需給の緩和をもたらしているのである。

石油の需要は経済関数であるとも考えられることから、原油相場はしばしば株式相場と相関するのだが、もし、少し以前の株式指標との相関のまま原油価格が変動していれば、今頃は原油価格(欧州での代表的な指標である、英領北海で生産される「ブレント」原油)は1バレル当たり130ドル台になっていたであろう。

しかしながら、イラン、リビア、エジプト、シリアといった諸国で政情不安などから供給途絶懸念が市場で発生しているにもかかわらず、現在の原油相場は120ドルにも到達していない。これは、米国におけるシェールオイル増産による世界石油需給の緩和が影響していると考えられる。

そして、今後もシェールオイルが増産されていくと、米国の石油輸入量はさらに減少し、余剰となった分が他の消費国に向かうと予想される。その結果、世界石油需給がより一層緩和するとともに、OPEC産油国による市場占有率を抑制する方向に作用すると市場では考えられるようになっている。

では、将来的に原油価格はどのようになるのか?

原油価格を予測するのは極めて難しいが、今後の相場に対する市場の考え方を反映した(但しそれは現在想定される諸条件を考慮した市場の考え方であって、今後想定しない事態が発生する可能性もあるため、その通りに価格が動くとは限らない)ものに、先物市場の価格(つまり将来の売買の予約をする際に適用される価格)があるが、それを見ると、2020年の原油先物は1バレル当たり90ドル程度である。

それはつまり、市場関係者が将来的な原油価格は現在の111ドルから90ドル程度に下落すると考えていることを意味する。もちろんそれは、シェールオイルが増産されることによってもたらされる世界石油需給の緩和が一因となっていると言えよう。

野神隆之 (のがみ・たかゆき)
独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)石油調査部上席エコノミスト。早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。米国ペンシルバニア大学大学院修士課 程およびフランス国立石油研究所付属大学院(ENSPM)修士課程修了。通商産業省(現・経済産業省)資源エネルギー庁長官官房国際資源課(現・国際 課)、国際エネルギー機関(IEA)石油産業市場課等に勤務の後、石油公団企画調査部調査第一課長を経て、2004年より現職
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