【事実関係】
8月31日、ロシアのプーチン大統領は、イシャエフ極東連邦管区大統領全権代表兼極東発展大臣を解任した。
【コメント】
1.
イシャエフ解任の大統領令に理由は明示されていないが、「イシャエフ本人の申し出により」という説明がないので、更迭と見るのが妥当だ。
2.―(2)
もっともプーチン大統領自身は、<イシャエフ氏の解任について「洪水と直接関係なく、計画に基づいたもの」と指摘した>(8月31日『毎日新聞』電子版)としたが、洪水に対する責任を解任理由とすると、非常事態省を含む他の閣僚に対する処分に拡大し、中央政局の混乱を惹起する可能性があるので、モスクワにおける影響力が限定的なイシャエフに、全責任を負わせたものと見られる。
3.―(1)
同日付で後任の極東連邦管区大統領全権代表に、ユーリー・トルトネフ(現在、大統領補佐官)が任命された。トルトネフは副首相兼任を命じられた。<極東発展相の後任は明らかになっていない。極東発展省については「非効率だ」として一部で不要論も出ている。>(8月31日『毎日新聞』電子版)。
3.―(2)
今後、北方四島を含む極東開発は同副首相が直接担当することになる。それ故に日本政府がトルトネフと人間的信頼関係を構築することが北方領土問題を解決するために重要になる。・・・・・・
◆小松一郎『実践国際法』信山社 2011年
8月8日に内閣法制局長官に就任した小松一郎氏(前駐仏大使、元外務省国際法局長)の上梓した大学の教科書(もしくは参考書)を想定した国際法の概説書である。小松氏は、<日本にとって、国際法を「味方につけ」、これを上手に「使う」ことの重要性は特別に大きい。>(iv頁)と強調する。
それでは、小松氏流の方法で国際法を味方につけることによって、北方領土問題を解決することができるか検討してみよう。小松氏は、北方領土交渉についてこう述べる。
<1996年11月、エリツィン政権下のロシアのプリマコフ外相が訪日し、池田外務大臣(いずれも当時)との間で第7回日露外相間定期協議が行われた。その際、日本側より領土交渉と領土問題解決のための環境整備の両面における尽力を同時並行的に図る必要性を強調したのに対し、ロシア側は環境整備をまず進めることが重要とするとともに、四島の主権に関する日露それぞれの立場を守るという原則に立って、四島における日露の「共同経済活動」を進めるとの考えを示唆した。・・・(略)
無味乾燥な官僚的文書(こういう文体を常用する人は創造的知性が欠如している場合が多い)の中に、今後の北方領土交渉にとって実に有害な内容が含まれている。北方領土の共同経済活動が「現実問題として属地的管轄権の処理が大きな壁になり」実現できないというくだりだ。小松氏のような外務省の条約官僚が、管轄権問題を前面に押し出し、共同経済活動を阻害しているのである。