弦理論から超弦理論へ そして私たちは「超空間」に存在する?

『大栗先生の超弦理論入門』第5講
大栗 博司 プロフィール

では、なぜこのようなものを考えなくてはいけないのでしょうか。

超弦理論では、弦理論にフェルミオンを含めるために超空間を考えましたが、そのような空間の中での弦理論が、数学的に本当につじつまが合っているのかを確かめる必要がありました。その結果、理論が量子力学の原理などと矛盾しないためには、超空間を回転する対称性が必要であることがわかりました。

超弦理論では、弦が普通の座標の方向に振動するとボゾンになり、グラスマン数の座標の方向に振動するとフェルミオンになります。超空間に超対称性があると、ボゾンとフェルミオンの間にも必然的に、入れ替えが可能な対称性が現れます。

このように超対称性という考え方は、超弦理論の研究から生まれてきました。超弦理論から導かれる素粒子模型には、超対称性が自然に組み込まれているのです。言い換えれば、超弦理論は超対称性を予言している、と考えてもよいと思います。

私たちは超空間にいるのか

超対称性を仮定すると、新しい粒子が予言されることになります。標準模型のボゾンにはフェルミオンの新粒子が、標準模型のフェルミオンにはボゾンの新粒子が、それぞれ同じ質量を持つパートナーとして存在することになるのです。

しかし、このようなパートナー粒子はいまのところ、まだ見つかっていません。

自然界の基本法則のレベルでは対称性があっても、実験で到達できるエネルギーで観測される現象からは、それが見つけられないということはよくあります。

あるはずの対称性が見えないというこの現象は、南部陽一郎が発見した「対称性の自発的破れ」によって説明されました。2012年のCERNでのヒッグス粒子の発見は、電磁気力と弱い力の間の対称性が自発的に破れていることの証拠ともなったのです。

ヒッグス粒子を発見したあと、CERNはいったんLHCの運転を休止しました。しかし、2015年には、これまでよりも高いエネルギーによる実験を再開する予定になっています。

さらに、日本への誘致が検討されているILC(国際リニアコライダー)のような高エネルギー実験も計画されていますので、そう遠くない将来に、超対称性から予言されるパートナー粒子の存在が確認されるかもしれません。

そうなったら、これは実に衝撃的な発見です。単に「新粒子が見つかった」というだけの話ではありません。

私たちは、三次元の空間に住んでいると考えてきました。しかし超弦理論は、私たちの空間が普通の空間ではなく、超空間であると予言します。普通の数字で決まる座標のほかに、グラスマン数という不思議な数を座標に使う「余剰次元」が存在すると予言するのです。

超対称性で予言される粒子が発見されると、超弦理論を検証する道も開け、私たちの空間に対する通念も根底から揺さぶられることになるでしょう。

〈この続きは『大栗先生の超弦理論入門』でお楽しみください〉 

大栗博司(おおぐり・ひろし)
カリフォルニア工科大学カブリ冠教授、東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構主任研究員。1962年生まれ。京都大学理学部卒業。京都大学大学院修士課程修了。東京大学理学博士。プリンストン高等研究所研究員、シカゴ大学助教授、京都大学助教授、カリフォルニア大学バークレイ校教授などを経て現職。アスペン物理学センター理事。アメリカ数学会アイゼンバッド賞、フンボルト賞、仁科記念賞、サイモンズ賞などを受賞。アメリカ数学会フェロー。『重力とは何か』、『強い力と弱い力』(幻冬舎新書)、朝日新聞WEBRONZAの執筆や市民講座などで科学アウトリーチにも努めている。
『大栗先生の超弦理論入門』
九次元世界にあった究極の理論

大栗博司=著

発行年月日:2013/08/20
ページ数:288
シリーズ通巻番号:B1827

定価(税込):1029円
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(本文および著者情報は初版刊行時点のものです)