弦理論から超弦理論へ そして私たちは「超空間」に存在する?

『大栗先生の超弦理論入門』第5講
大栗 博司 プロフィール

さて、南部と後藤の弦理論では、このような性質を持つボゾンだけが現れました。彼らが考えたのは、2×2=4、2×2×2=8……と何度でもかけ算ができる普通の数を座標とする空間で振動する弦でした。

南部と後藤の計算をくわしく見てみると、同じ状態にいくらでも粒子を詰め込むことができるというボゾンの性質は、何度でもかけ算ができるという普通の数の性質に由来していることがわかります。普通の座標を使っているかぎりは、弦の振動からフェルミオンをつくることはできないのです。

これに対してグラスマン数は、θ×θ=0のように、一回かけると、もうそれでおしまいです。一つの状態には一つの粒子しか入れないというフェルミオンの性質は、実は、一回かけるとそれで終わりになるというグラスマン数の性質に由来しているのです。

そして、普通の数のほかにグラスマン数も座標として使う超空間では、グラスマン数で示される方向に振動する弦を考えると、そこからフェルミオンが現れるのです。

「超対称性」とはなにか

このように、超空間の中の弦理論を考えると、ボゾンだけではなく、フェルミオンも現れます。超弦理論とは、超空間の中の弦理論なのでその名がついたといってもよいでしょう。

ただし、超弦理論の「超」にはもう一つ、別の意味があります。「超対称性」という概念の「超」です。超対称性もやはり、普通の対称性ではありません。では「普通の対称性」とは何でしょうか。

対称性とは、見方を変えても性質が変わらないということです。たとえば、見る方向を変えても同じように見えるときは、回転対称であるといいます。二次元の平面は回転しても変わらないので、「回転対称性」があります。二次元平面の場所を指定するのに(x、y)の座標を使うと、平面の回転は座標軸の回転として表すこともできます。私たちが住む三次元空間にも回転対称性があります。

このように、自然界の法則にはみな、回転対称性があるということができるのです。

この考え方はまだ新しく、確立されたのは近代になってからでした。古代ギリシアのアリストテレスの世界観によると、三次元空間は回転対称ではありませんでした。アリストテレスはすべての物が上から下に落ちるのは、物質そのものに「本来の場所」である地球の中心に戻る性質があるからであり、「上下」の方向には本質的な意味があると考えたのです。

この考え方は「地動説」を唱えたコペルニクスに始まる近代世界観によって、ようやく覆されました。

上下が特別な方向であると私たちに感じられるのは、私たちが住んでいる地球が重力を及ぼしているからであって、自然界の法則それ自身は、回転対称性を持っているのです。

超対称性とは、この回転対称性の概念を超空間にまで拡張したものです。超空間の座標は、普通の数とグラスマン数の両方からできています。普通の二次元平面の回転対称性はxとyの座標軸の回転と考えられますが、普通の数xとグラスマン数θの座標軸の回転を考えるのが超対称性です。

超空間での回転対称性なので、超対称性と呼ぶのです。