弦理論から超弦理論へ そして私たちは「超空間」に存在する?

『大栗先生の超弦理論入門』第5講
大栗 博司 プロフィール
『大栗先生の超弦理論入門』
著者=大栗博司
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私たちが住む三次元空間では、位置を特定するには三つの数字(縦・横・高さ)が必要です。

たとえば碁盤の目のように区画された京都の町で待ち合わせをするとき、縦と横の通りの名前を伝えれば住所はわかります。しかし、私たちが二次元の平面の上に住んでいるのならそれで十分ですが、私たちの空間には「高さ」もあります。

「四条河原町の髙島屋で会いましょう」と伝えただけでは、何階で待てばいいのかわかりません。「6階の喫茶店で」と「高さ」まで伝えて初めて、位置が特定できるわけです。「四条」「河原町」「6階」が座標であり、この三つを指定しないと場所が決まらないので、私たちの空間は三次元なのです。

普通の空間では、この座標が「普通の数」で表されます。ところが超空間では、座標が普通の数ではないのです。

普通の数、たとえば2は、何度でもかけ算をすることができます。2×2は4、2×2×2は8、2×2×2×2は16……という具合にどんどん数が大きくなっていくだけで、途中で答えがゼロになってかけ算ができなくなることはありません。

ところが、数学の世界では、この常識がいつも通用するとはかぎりません。同じ数どうしをかけると、答えがゼロになってしまうという不思議な数があるのです。ここで、そのような数をθと書くことにすると、

 θ×θ=0

となってしまうのです。こうした奇妙な性質を持つ数のことを「グラスマン数」と呼びます。

超弦理論では、このグラスマン数も座標に使う超空間という空間を考えます。しかし、なぜ、このような数を持ち出す必要があるのでしょうか。それは、フェルミオンとボゾンの性質の違いのためです。

ボゾンとフェルミオンボゾンはいくらでも粒子を詰め込めるが(右)、フェルミオンは同じ空間に1個しか入れない(左)
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物質を形成するフェルミオンは、ある状態を一つの粒子が占めると、別の粒子が同じ状態をとることができません。これは、たとえばコーヒーカップという物質を同じ空間に二つも三つも置けないのと同じことだと思えばいいでしょう。

物質は空間を占有するので、複数のカップを上に重ねたり横に並べたりすることはできても、同じ空間に重ねることはできません。

それに対して、ボゾンは同じ状態にいくらでも粒子を詰め込むことができます。ですから、もしボゾンだけの世界に通勤電車があったとしたら、満員すし詰めに見える車両でも乗客がはみ出すことはありません。いくらでも詰め込めるので、決して満員にはならないのです。

同じ状態にいくらでも詰め込めるというボゾンの性質は、力を伝えるという役割と関係があります。

力には、強弱をつけることができるという特徴があります。たとえば、重い星の上では強い重力が働いていますが、軽い星の重力は弱い。この重力の強弱は、それを伝えている重力子の数で決まります。

磁石にも強弱がありますが、これも電磁気力を伝える光子の数で決まります。同じ状態に重力子や光子をいくつでも詰め込めるので、重力や電磁気力に強弱がつけられるのです。

これはほかのボゾンでも同じことで、力の強さは、それぞれの力を伝えるボゾンの数で決まるのです。