「無限大の問題」をいかにして「弦」が解決したのか?

『大栗先生の超弦理論入門』第4講
大栗 博司 プロフィール

しかし波の中には、縦と横のどちらかしかないものもあります。

たとえば空気中を伝わる音波には縦波しかありません。地震波の伝わる岩盤は固体なので横方向に振動できますが、空気を横方向に揺らすと元に戻らず、そのまま流れて行ってしまうからです。そのため音波は、空気が進行方向に伸び縮みしながら伝わる縦波になります。

それに対して、電磁波には横波しかありません。これは弦の振動の性質とうまく合っているのです。

「閉じた弦」は重力を伝える!

次は、閉じた弦によって現れる粒子です。

1974年、当時まだ北海道大学の大学院生だった米谷民明は、ある弦が閉じた弦を放出して、別な弦がそれを吸収すると、どんな現象が起きるのかを調べていました。

閉じた弦にもいろいろな振動状態が考えられますが、米谷はその中でもいちばん簡単な振動を考えてみました。このような振動をしている弦の放出と吸収によって、何が起きるか──。米谷の発見は驚くべきものでした。

二つの弦の間に、重力が伝わっていたのです。

これにより、弦理論が重力を含む理論であることがわかったのです。

電磁場の理論を量子力学と組み合わせると、電磁波の粒である光子が現れるように、重力の理論を量子力学と組み合わせると、重力波の粒である「重力子」が予言されます。そして、電磁気力が光子のやりとりによって伝わるように、重力は重力子のやりとりによって伝わると考えられます。

振動している閉じた弦が重力を伝えることから、この弦は弦理論における重力子であると考えることができるのです。

この米谷の発見とほぼ同時期に、米国でもそれに気づいた研究者がいました。カリフォルニア工科大学のジョン・シュワルツと、彼の共同研究者だったフランス人のジョエル・シェルクです。

しかも、米谷は閉じた弦が重力を伝えると指摘するにとどまったのに対して、彼らは、そこから弦理論の可能性をさらに広げることを提唱しました。

弦理論が重力を含むのなら、この理論こそが、一般相対性理論と量子力学を融合する究極の統一理論に違いないと考えたのです。

米谷は当時のことを回顧して、次のように語っています。

この提案は当時としてはあまりに大胆ですし、根拠が薄弱で、誰もあまり信じなかったのですが、勇敢にも、彼ら(シュワルツとシェルク)はそういう論文を書いたのです。私は当時はまだ一人ぼっちで研究している大学院生にすぎず、「統一理論」とまで勇敢に主張するほどの勇気はありませんでした。

〈第5講につづく〉 

大栗博司(おおぐり・ひろし)
カリフォルニア工科大学カブリ冠教授、東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構主任研究員。1962年生まれ。京都大学理学部卒業。京都大学大学院修士課程修了。東京大学理学博士。プリンストン高等研究所研究員、シカゴ大学助教授、京都大学助教授、カリフォルニア大学バークレイ校教授などを経て現職。アスペン物理学センター理事。アメリカ数学会アイゼンバッド賞、フンボルト賞、仁科記念賞、サイモンズ賞などを受賞。アメリカ数学会フェロー。『重力とは何か』、『強い力と弱い力』(幻冬舎新書)、朝日新聞WEBRONZAの執筆や市民講座などで科学アウトリーチにも努めている。
『大栗先生の超弦理論入門』
九次元世界にあった究極の理論

大栗博司=著

発行年月日:2013/08/20
ページ数:288
シリーズ通巻番号:B1827

定価(税込):1029円
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(本文および著者情報は初版刊行時点のものです)