「無限大の問題」をいかにして「弦」が解決したのか?

『大栗先生の超弦理論入門』第4講
大栗 博司 プロフィール

科学の世界には「思考の経済」という考え方があり、できるだけ少ない概念で多くのことを説明できるのがよい理論だとされています。1種類の弦ですべての素粒子を説明しようとする弦理論は、経済的な理論といえるでしょう。

ただし、ここで考えている弦とは、一次元の拡がりを持っているとはいっても非常に小さいものです。LHCの分解能では、弦は見えません。だから素粒子は点粒子であると考える標準模型と矛盾することはありません。

すべてのものが弦からできていると言うと、「では、弦は何からできているのか?」と聞かれることがあります。ここで、かりに弦が点からできていると考えると、点粒子が基本単位となりますので、無限大の困難が再登場してしまいます。だから弦理論では、弦はそれ以上に細かく分けることはできないと考えます。

(編集部注: 弦が無限大を解消できるくわしい理由については、書籍『大栗先生の超弦理論入門』をご覧ください)

光子は「開いた弦」の振動

弦は1種類ですが、その状態には二通りあります。両端のある「開いた弦」と、両端がくっついて輪になった「閉じた弦」です。

開いた弦が動くと、その軌跡は平たくて細長い面になります。まるで「タリアテッレ」と呼ばれるパスタのようです。これに対して、閉じた弦が動いた軌跡は「ペンネ」と呼ばれるパスタのように、筒状になります。タリアテッレやペンネを横割りに切っていくと、開いた弦や閉じた弦の動きが連続写真のように連なって見えます。

では、素粒子の標準模型にある粒子が、弦理論からどのように現れるのか、代表的な粒子を見ていきましょう。まずは、電磁気力を支える光子です。

弦理論では、光子は開いた弦の振動から現れると考えられています。光子が現れるこの振動の特徴は横振動、いわば「横波」しかないということです。横波とは、進行方向と直交して振動している波のことです。

これは、光子の性質とうまく合っています。光子は電磁波の最小単位ですから、対応する弦の振動状態も、電磁波の性質を反映していなければなりません。では電磁波の特徴は何かといえば、それは「横波しかない」ということなのです。

波に縦波と横波があることは、地震に関する情報などを通してご存じの方も多いでしょう。地震波には両方の波があり、縦波のほうが横波よりも速く伝わります。そのため、両者が到達するまでの時間差を測ると、震源地からの距離を推定することができます。