「無限大の問題」をいかにして「弦」が解決したのか?

『大栗先生の超弦理論入門』第4講
大栗 博司 プロフィール
『大栗先生の超弦理論入門』
著者=大栗博司
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場の量子論における無限大の問題は、くりこみで「先送り」することにより暫定的に解決しました。しかし、その前提となる自然界の階層構造は、重力まで含めようとすると行き止まりになります。そこで根本的な解決法として登場したのが「弦理論」でした。

弦理論を提案したのは、シカゴ大学の南部陽一郎と日本大学の後藤鉄男です。彼らは素粒子は「点」ではなく、一次元に拡がって振動する「弦」だとすると、その性質がうまく説明できると主張したのです。

当時、スタンフォード大学のレオナルド・サスキンドとデンマークのニールス・ボーア研究所のホルガー・ニールセンも同じようなアイデアを発表していましたが、南部と後藤の提案のほうが明快だったので、弦理論のその後の研究では彼らの方法が使われるようになりました。

日本の物理学者が二人も、それぞれ独立にこの理論に到達したのは、湯川が早い段階から「拡がりを持つ素粒子」という野心的なアイデアを考えていたことで、日本にはそれを受け入れる素地ができていたからではないかと思います。

17種類の素粒子が「1種類の弦」から現れる

弦理論の大きな利点の一つは、すべての素粒子を1種類の弦で説明できることです。南部や後藤が弦理論を考えた理由も、そこにありました。

それまでの素粒子論では、電子、光子などを、それぞれ別の種類の粒子として扱ってきました。素粒子の標準模型には17種類もの基本粒子があります。しかし、それらはみな大きさを持たない点状の粒子なのですから、名札がついているわけでもないのに17種類に区別されるのは、考えてみると不思議なことです。

ところが弦理論では、すべての素粒子が1種類の弦から現れると考えます。バイオリンの弦がその振動状態によってさまざまな音を奏でるように、素粒子の弦にもさまざまな振動状態があり、それによって電子になったり光子になったりすると考えるからです。

弦にはさまざまな振動状態がある