激安時給で単純作業をした人は楽しくなる? 池谷裕二先生連続講義

『単純な脳、複雑な「私」』第4回
池谷 裕二 プロフィール

感情を行動に合わせる

 自分の感情と身体的事実(行動)が矛盾していると、僕らはすごく不快。だから、感情と行動は一致させたいわけ。心身が乖離した状態からいち早く抜け出したい。

 つまり、なんとかして感情と行動を一致させたいのだけど、さて、これを一致させるにはどうしたらいい? ふたつにひとつしかないよね。つまり、行動を変えて感情と一致させるか、感情を変えて行動に合わせるか。

 感情と行動だったら、どちらの方が変更しやすいだろうか。答えは明らかだね。「感情」だ。だって、行動は事実でしょ? 「既成事実」を変えるのは大変な作業だ。というか、この場合は不可能だよね。その一方、「心」はいとも容易く変えられる。

 だから、感情を行動に整合するように変化させて、身体の事実、つまり「作業をしている」という事実に合致させるわけ。「自分はこんなに安い賃金でも働いている」「ということは、この作業は決してつまらないものではなくて、おもしろいんだ」「おもしろいからこそ、私は自ら望んで積極的に作業をやっているんだ」とね。

 こう解釈すると、先のアンケートの結果が説明できるでしょ。

 つまり、「給料をたくさんもらえれば、それでいい」というのは実は短絡的で、「やり甲斐」までを含めて考えたら、僕らの心は複雑な反応を示すことがわかる。お金をもらいすぎると、仕事自体の魅力が落ちることもあるってことだ。

〈最終回「脳には『幽体離脱』用の回路があった!」へつづく〉

著者 池谷裕二(いけがや・ゆうじ)
1970年、静岡県藤枝市生まれ。薬学博士。現在、東京大学大学院薬学系研究科准教授。脳研究者。海馬の研究を通じ、脳の健康や老化について探求をつづけ る。日本薬理学会学術奨励賞、日本神経科学学会奨励賞、日本薬学会奨励賞、文部科学大臣表彰(若手科学者賞)、日本学術振興会賞、日本学士院学術奨励賞な どを受賞。主な著書に『記憶力を強くする』『進化しすぎた脳』(ともに講談社ブルーバックス)、『脳はなにかと言い訳する』(新潮文庫)、『脳には妙なクセがある』(扶桑社)などがある。
『単純な脳、複雑な「私」』

池谷裕二=著

発行年月日:2013/09/05
ページ数:480
シリーズ通巻番号:B1830

定価(税込):1,260円
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