相手はあなたの顔の半分しか見ていない! 池谷裕二先生連続講義

『単純な脳、複雑な「私」』第2回
池谷 裕二 プロフィール

 たぶん、ダ・ヴィンチはこの効果を経験から知っていたんでしょうね。それでこういう名画を残したんだと思います。モナ・リザは、脳科学的に見ても、第一級の傑作だと私は思います。

 もちろん、これは絵に限った話じゃなくて、私たちの実生活でも同じことが起きています。みなさんはまだ高校生だから、気合を入れて化粧やひげ剃りはしないかもしれませんが、そう、もう何が言いたいかわかりますよね。

 顔なんてどうせ半分しか見てもらってないんですよ(笑)。相手から見て左側の視野、つまり自分の右顔だけ。

 だからこそ、気合を入れなきゃいけない側があるわけです。逆に言えば、手を抜いてもいい側があるんですよ(笑)。左顔はどうせ見てもらってないんですよね。だから「今朝は寝坊した! やばい、いつもの半分しか化粧の時間がない」というときは、全体的に均一に少しずつ手抜きをするのではなくて、左顔半分だけ手を抜いてくださいね(笑)。

 そうそう、でも、これにはむずかしいポイントがあるんです。鏡には自分の顔は映りません。どういうことかと言いますと、鏡を覗き込むと左右反転しますから、鏡に映った顔で、自分の脳から見て認識できる方は、自分の左側になっちゃう。だから、ついつい顔の左側半分を念入りに粧してしまうんですね。でも左側って、他人から見られていない側ですよね(笑)。

 はい、そういうわけで、鏡を使って化粧をしたり、髪型を整えたり、ひげを剃ったり、ネクタイをしたりするときは要注意ですよ。明日から反対側に気合を入れましょうね(笑)。

 ちなみに、もう一言加えるならば、写真に撮った自分の顔と、鏡に映った自分の顔が違うように感じたことはありませんか。人の顔は左右対称でない上に、私たちはそもそも半分にしか注意を払っていないからですね。

 言うまでもなく、人に見られているのは、写真に写っているときの自分の顔。鏡に映っているようには見てもらっていませんよ。

 〈第3回「僕らに『解釈の自由』は存在しなかった!」へつづく〉

著者 池谷裕二(いけがや・ゆうじ)
1970年、静岡県藤枝市生まれ。薬学博士。現在、東京大学大学院薬学系研究科准教授。脳研究者。海馬の研究を通じ、脳の健康や老化について探求をつづけ る。日本薬理学会学術奨励賞、日本神経科学学会奨励賞、日本薬学会奨励賞、文部科学大臣表彰(若手科学者賞)、日本学術振興会賞、日本学士院学術奨励賞な どを受賞。主な著書に『記憶力を強くする』『進化しすぎた脳』(ともに講談社ブルーバックス)、『脳はなにかと言い訳する』(新潮文庫)、『脳には妙なクセがある』(扶桑社)などがある。
『単純な脳、複雑な「私」』

池谷裕二=著

発行年月日:2013/09/05
ページ数:480
シリーズ通巻番号:B1830

定価(税込):1,260円
     ⇒本を購入する(Amazon)
     ⇒本を購入する(楽天)