私たちは5秒で「ありもしないもの」を見る! 池谷裕二先生連続講義

『単純な脳、複雑な「私」』第1回
池谷 裕二 プロフィール

 ウソをついているときに脳の様子をMRI(核磁気共鳴画像法)で測定しています。ほら、脳のここら辺が活動しているのがわかりますね。つまり、これと似た反応が出たら「ウソをついている」と推測できる。

 ジョージ博士はこの発見に自信があったようで、ボランティアを募って、「私のMRI装置にウソをつき通すことができたら賞金を出そう」と懸賞までやったのですが、参加者は全員ウソを見破られたそうです。そのくらい、脳の中身を見ると、何を考えているかが知れてしまうというわけです。正直者だろうがウソつきだろうが、「脳はいつでも正直」なんですね。

 ちなみに、インドでは世界に先がけて、MRIのウソ発見画像が法廷で証拠として使われました。まだ問題も多いようですが、ますます注目される分野になるでしょう。

 もうひとつ、おもしろい話をしましょう。昨年の暮れ(編集部注・講演時点から)に出た論文です。「Lending a hand」、つまり「手を貸す」というタイトルがついています。ここではボランティアの既婚女性に研究室に集まってもらって、脳の活動を調べています。

 何をするかというと、手に強い電気刺激を与えました。痛いんですよ、ビリビリと。目の前のランプが点灯したら電気刺激が加わるしくみになっています。すると、そのうちに、ランプがついただけで怖がるようになる。脳には嫌悪の反応が顕著に現れます。

 そこで、次に何をやったことが、これまた奇抜なアイデアの実験なんです。旦那さんに脇でもう一方の手を握ってもらったんですよ。夫が奥さんの手を握る。夫がやったことは、ただそれだけです。そして先ほどと同じようにランプをつけて奥さんの手に電気刺激を与えます。

 すると驚くべきことに、恐怖の反応が減るんですよ。島皮質といって嫌悪を感じる脳部位の活動が、夫が横で手を握っていると減りました。夫が横で手を握るだけですよ。すごいですね。

 実際に、女性に「今のは痛かったですか」とくと「今回はあまり痛くなかった」という答えが返ってくる。

 おもしろいことに、見知らぬ人が手を握った場合は、何の効果もないんです。つまり、これは信頼のおける人、あるいは最愛の人だけが持っている「愛の力」の効果なわけです。うーん、心温まるいい話ですね。

〈第2回「相手はあなたの顔の半分しか見ていない!」へつづく〉

著者 池谷裕二(いけがや・ゆうじ)
1970年、静岡県藤枝市生まれ。薬学博士。現在、東京大学大学院薬学系研究科准教授。脳研究者。海馬の研究を通じ、脳の健康や老化について探求をつづけ る。日本薬理学会学術奨励賞、日本神経科学学会奨励賞、日本薬学会奨励賞、文部科学大臣表彰(若手科学者賞)、日本学術振興会賞、日本学士院学術奨励賞な どを受賞。主な著書に『記憶力を強くする』『進化しすぎた脳』(ともに講談社ブルーバックス)、『脳はなにかと言い訳する』(新潮文庫)、『脳には妙なクセがある』(扶桑社)などがある。
『単純な脳、複雑な「私」』

池谷裕二=著

発行年月日:2013/09/05
ページ数:480
シリーズ通巻番号:B1830

定価(税込):1,260円
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