「私から、ストをやれとは云わないが、肩すかしをするにはいい時だから、やるならやってみろ、一人でも戦う」
石橋は云い放った。
「ストをやれば賃金を払えない。品物が出来ない。そうするとお得意様を失ってしまう。それも仕方ない」
とうとう、従業員がストライキに参加した。
半月ぐらいすると、組合員たちは靴磨きや行商をして、いかにも哀れを繕って、資本家の非を訴え、社長を葬れ、というようなビラを撒いた。
石橋は、「賃金は倍にすると云っているのだ、人事権は、絶対に譲れない」と云いはり続けた。
結局、組合は折れて、二倍の賃金を受け容れた。
『週刊現代』2013年8月31日号より