スクープレポート 高齢出産「本当のリスク」出生前の遺伝子検査で誤診が続出していた

ダウン症児を生んだ母親が、検査した医師を訴えた!
週刊現代 プロフィール

 だが、実情は異なる。正確な統計はないが、出生前検査でダウン症などの障害が分かった結果、経済的には育てられなくないにもかかわらず、堕胎を選ぶという親は決して少なくない。

 出生前検査について長年取材してきた全国紙社会部デスクが解説する。

「つまり、親も、医師も、そして司法関係者も、全員が本音を言わないのです。

 今回の裁判でも、母親は『障害があったら堕胎するつもりだった』と大声では言えない。厳密には、それは違法だからです。当然医師も『堕胎の選択肢を与えるために検査を勧めた』とは言えない。そして裁判官は、そうした事情を知っていながら追及しない」

 法律を厳しく適用すれば、堕胎にかかわる日本中の母親と医師が罪に問われかねない。法と現実は、それほど乖離しているのだ。

 紀子さんらの裁判はまだ始まったばかりだが、実は出生前検査の普及により、こうした「誤診」が裁判になるケースが続発している。

「北海道と同様の訴訟が、群馬県でも起きています。こちらは生まれたダウン症児は健在とのことで、取材は難しいですが。また、こうして表面化したケース以外に、泣き寝入りしている母親も多いでしょう」(前出・社会部デスク)

 出生前検査の「誤診」は、母親と子どもの運命を大きく変えてしまう。だが一方で、「異常が分かれば生まなかったのに」という主張には、一抹の違和感も残る。明治学院大学教授で生命倫理を専門とする柘植あづみ氏が語る。

「親の決定権を全て否定することはできません。しかし、出生前診断でダウン症と分かれば堕胎しても構わない、という判断を下すのも違うのではないか。なぜなら今回のケースで分かるように、医療には限界があるからです。出生前検査でもミスは起きるし、また先天的な障害や病気の有無は分かっても、症状の重さまで知ることはできません。

 そして、裁判で解決できることにももちろん限界がある。たとえ損害賠償を勝ち取っても、亡くなった子が戻ってくるわけでも、母親の心が癒えるわけでもありません」(柘植氏)

 函館地裁では、第2回口頭弁論が今月20日に予定されている。出生前検査の「誤診」をめぐる訴訟は、まさに医療の進歩と限界がもたらした、高齢出産の「新たなリスク」なのだ。

「週刊現代」2013年8月17日・24日号より