『スティーブ・ジョブズ』著者:ヤマザキマリさんインタビュー
「彼は嫌な奴であり、天才であり、ひと言では言い表せない男です!」

---寂しい、というと?

人間というのは、過去の嫌な出来事などを大人になるにつれて浄化していく生き物だと思うんですが、ジョブズにはそれがないんですよ。彼は出生のねじれによって、孤独をずっと背負っている。

だからこそ、一番頼らなきゃいけないのは自分で、裏切ることがないのも自分自身。それほど、彼の中で自分という存在は揺るぎないポジションにいて、鬱屈したものを排除するためにも気持ちと格闘していたのかもしれないですね。

---それでも、ジョブズは周りの人から認められていきますよね。

ジョブズがスペシャルなのは、そこなんですよね。彼が周りを馬鹿者扱いしても、みんな許してしまうんです。彼の持つカリスマ性は唯一無二なんです。私は絶対彼には惚れないし、一緒に働くのも嫌ですけど(笑)。そもそも、ジョブズは帰属性がないのに、よく会社を経営したなと思うくらいですからね。

---経営者としての彼のやり方は独特ですよね。日本だとありえない・・・

経営方法としては、アメリカという社会が彼をそうさせたんだと思います。アメリカは日本のようにもじもじして謙虚にやっていたら生きていけない国ですからね。成功しなきゃ保険ももらえないし、虫歯で人が死ぬ国ですもん。

そんな中で成功していこうと思ったらどんな手だって使うという考えがもともとありますね。そんな中で、ジョブズはお金の動かし方などを直感でわかっていて、それで毒素が出たとしても仕方ないと思ったのかもしれません。

---確かに、ジョブズが日本に生まれたらアップル社は誕生しそうにないですよね。むしろ、日本にはジョブズのような人間を許容しない文化があると感じるんですが。

それは私も思います。例えば、日本のテレビを見ていると、女性アナウンサーは清楚系のお嬢さんっていう感じで、みんな揃ってヒラヒラした洋服を着ていますよね。外国のアナウンサーのお姉さんは、胸の強調がそれはもうすごいんですよ(笑)。

日本でそれをやったらクレームの嵐ですよね。でもそこを、ちょっとこういうのもアリだなっていうふうにしていかなきゃ、おもしろいものの誕生には繋がっていかないんじゃないですかね。他人と違うものを認めることって大切で、私たちはもっと懐を広くしていかなきゃいけないと思うんですよ。

---他人と違うからこそ、誕生するものもありますもんね。

4話目で、ジョブズが音楽を聴くために、いつも大きな音楽デッキを担いで歩いていたシーンがあるんです。これこそ、iPodの発生につながりますよね。あんな大きい音楽デッキを持って歩くなんて大変なことで、今では考えられないじゃないですか。

周りからしたら、いつもデッキを担いでいる変な男だったかもしれないけど、いろんなことが彼の中では繋がっているんです。iPodの誕生がなかったら、今みんなが使っているiPhoneやiPadも生まれなかったわけですからね。

このぐらいおもしろいことを生み出せるのなら、変人だっていいじゃん! と。もっと変人に対する寛容性を広めるべく、私はこの作品を描いていると言っても過言ではありません(笑)。