[ボクシング]
杉浦大介「“敗者なき戦い”の後で」

~オマー・フィゲロアvs.荒川仁人~
スポーツコミュニケーションズ

課題は攻撃力アップ

 もちろん、先に繋がったことを喜ぶだけでなく、荒川もさらに進化する努力を続けなければいけないのも確かである。本場のファンを感嘆させる好試合を見せられた点は胸を張ってよいが、結果だけをみれば、昨年のダニエル・エストラーダ戦に続き、世界ランカー相手に2連敗。いくら度胸は示しても、強豪相手に負けが続くのはやはりいただけない。特に日本の業界の趨勢にならい、今後も世界タイトルホルダーを目標とするなら、これ以上の敗戦は致命傷になりかねないだろう。

 次に与えられるチャンスでは、ファンを魅了するのと同時に、勝利を確実にもぎとらなければならない。いずれ実現するであろうアメリカでの第2戦は、荒川のキャリアを左右する大一番となるはずだ。

「11ラウンドにチャンスが来たときに決め切れなかったこと、中盤からセコンドの指示通りに動けなかったこと、今回は良かったこと、そうではなかったことをたくさん見つけた試合でした」

 フィゲロア戦の自身を、荒川は冷静に振り返っている。

 速攻型の相手にいきなりインファイトを挑み、勢いをせき止めた戦い方は理に適っているように思えた。第2ラウンドのダウン後もすぐに回復し、序盤を乗り切った頃には「荒川が勝てる展開になっている」と個人的には感じた。

 その通りにはならなかった理由は、端的に言って3つ。キャリア不足ゆえに真価を懐疑視されることも多かったフィゲロアが、実際には十分に世界レベルと思えるスタミナ、タフネス、冷静さを備えていたこと。ペースが少しずつ荒川の方に傾き始めているように見えた6ラウンドに、フィゲロアが2度目のダウンを奪って再び流れを奪い返したこと。

華やかなファイトウィークのイベント参加も良い経験になったはずだ。

 そして何より、荒川に流れを無理矢理にでも引き寄せるために必要な攻撃力がなかったこと。今後を考えたとき、特にこの3つ目の克服が荒川の最大のカギとなるのだろう。

「常に同じペースで試合をしてしまう。ヤマをつくるときにはつくらないと。昔から思っていたことですけど、世界レベルを経験する中で特に見えてきた自分の課題だと思っています」

 エストラーダ戦後にはそう語っていたクレバーなサウスポーなら、もちろんそれに気づいているはずだ。

 状況に応じたパンチの強弱とメリハリは、タフネスも並外れた世界の強豪たちに立ち向かうためには必須の要素だ。倒すまで行かずとも、分かりやすい形でポイントを奪う工夫は絶対に必要である。31歳のベテランがオフェンスに磨きをかけるのは簡単ではないが、その至難を成し遂げたとき、大舞台でも“善戦”以上の結果が見えてくるのではないだろうか。