安倍外交は概ね順調に推移している---。
安倍晋三首相は8月24日、第2次中東歴訪に発つ。クウェート、バーレーン、カタール、オマーンの中東4ヵ国である。4月末から大型連休期間中にロシアとサウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、トルコの中東3ヵ国を訪問したのに続くものだ。
5月下旬時点では、クウェート、カタール、オマーンの3ヵ国訪問が検討されていたのが、バーレーンが新たな訪問国に加わったのだ。筆者は、安倍首相のロシア・第1次中東歴訪に同行した世耕弘成官房副長官(政務担当)と会食した際、同氏から「8月には総理に残る中東諸国のクウェート、カタール、オマーンに行って頂くつもりだ」と聞いていた。
改めて指摘するまでもなく、日本はクウェートから原油、カタールから原油と天然ガス、オマーンから原油を輸入している。エネルギー資源外交の観点からも、こうした資源産出国との緊密な関係構築が必要である。
1人当たりのGDP(国民総生産)が約4万ドルであり、国際的にも富裕人口の割合が高いクウェートは、世界第4位の石油埋蔵量を誇る。
日本の天然ガス輸入先としてマレーシア、インドネシア、オーストラリアに次いで第4位であるカタールは、石油・天然ガスがGDPの50%、輸出の85%、政府収入の70%を占める超リッチ国だ。1人当たりのGDPは先の両国より少ないが、オマーンは東アフリカ・中東・ペルシャ湾岸・インドを結ぶ航路を扼する戦略的に重要な国である。
では、バーレーンはどうなのか。
近年、ドバイ(UAE最大の都市)、カタールに次ぐ中東の金融センターを目指しており、インフラ整備が進み、石油・アルミ精製、貿易、観光など新規事業を積極的に展開していることで知られるようになった。
が、もう一つ重要なポイントを忘れてはいけない。それは、同国の首都・マナマ近郊に米海軍中央統合軍第5艦隊司令部があることだ。
筆者が関心を抱いた契機となったのは、昨年2月下旬に同地で開催された秘密会議(サウジアラビア、クウェート、UAE、カタール、バーレーン、オマーンの湾岸協力機構=GCC加盟6ヶ国と米国、英国、ドイツ、フランス、トルコ、オーストラリア、日本の7ヶ国の次官級と軍司令官クラス約40人が参加)のことを知ったからだ。
教えてくれたのは、国際協力銀行(JBIC)執行役員の前田匡史氏である。
当時、内閣官房参与も兼務していた同氏は、日本人として唯ひとり同会議に出席した。同会議の運営は著名なシンクタンク、英国際戦略研究所(IISS)が担い、M・フォックス米第5艦隊司令長官(海軍中将)も出席した。
そして当時、喫緊の問題であったイランによるホルムズ海峡封鎖の可能性と能力、イスラエルによるイランの核施設空爆・破壊の可能性などについて、同司令長官が米側のエリント・インテリジェンスに基づいて秘密ブリーフィングを行ったというのだ。
米第5艦隊司令部には、現在の日本にとって無視できないシリア国内情勢、イランと湾岸諸国との係争の可能性、イスラエルとシリアの武力衝突などに関する最新情報が集約されているのだ。
安倍首相はそのバーレーンを訪れる。そして艦隊司令部を表敬するとなると、まさに日米同盟を地で行くことになる。
日程の詳細は未だ発表されていない。第1次安倍内閣時代の06年11月に麻生太郎外相(当時)が打ち出した外交戦略「自由と繁栄の弧」構想を体現した安倍首相による"価値観外交"は先のフィリピン訪問で成就、この自信から来るバーレーン訪問ではないか。