「小泉民営化」路線を修正する郵政改革基本法案(骨子)の決定がズルズルと遅れている。本稿を執筆している段階(3月21日)では、本稿アップの翌日(3月24日)、亀井静香郵政改革担当大臣が決断を下す段取りという。
首を傾げざるを得ないのが、この遅延の裏側だ。郵便貯金の限度額撤廃問題が予想外に大きな争点に発展し、政治の裏舞台の出来事とは言え、民間金融機関と日本郵政が激しく対立する事態が起きたことである。
背景には、この問題をあたかも重大な問題であるかのように演出し、その問題を裁く立場に立つことによって、対立する両サイドに恩を売ろうとする政治的な深謀遠慮が存在する。
はっきり言えば、この政治的な深謀を巡らせているのは、亀井大臣が率いる国民新党だ。同党が、今回の郵政改革を、7月に迫った参議院選挙向けの集票、集金マシーンとしてフル活用しようと暗躍しているのである。
これは、国民にとって容認できない緊急事態である。なぜなら、これらの集票・集金のツケが日本郵政の経営コストを押し上げ、それほど遠くない将来に、国民負担として跳ね返ってくることになるからだ。今こそ、国民は政治が舞台裏で繰り広げている深謀遠慮を知り、そうした施策にノーの意思表示を行うべきではないだろうか。
まず、筆者の手元にある「日本郵政グループの運営に関する改善要望」というタイトルが付いたレターをご紹介したい。このレターは、国民新党が3月4日付で日本郵政に突きつけたものである。
そこには、「生き生きとした郵便局の一日も早い復活を望む全国有権者の声を踏まえ、改めて下記のとおり要望します」と前置きしたうえで、「直ちに実施していただきたい事項」として8項目の要求が、また「引続き検討していただきたい事項」として別の9項目の要求が書き連ねられている。
驚かされるのは、その内容だ。「直ちに実施していただきたい事項」の8項目は、
(1) 非正規職員の正規化、
(2) 物品の地元調達、
(3) 旧普通局、旧集配特定局における郵便局会社、郵便事業会社、郵貯銀行、
かんぽ生命各社間の間仕切りの撤去及び局合施設の一体的利用、
(4) 郵便局の監視用カメラの運用停止及び転用、
(5) 7万ベージに及ぶ郵便局取扱マニュアルの抜本的簡素化、
(6) 検査・監査による郵便局負担の大幅改善(回数、重複、取調的姿勢等)及び
検査・監査部門の人員削減、
(7) 郵便局における営業体制の整備(局長の局外活動、社員訓練、営業経費、
地域特性に応じた商品開発)、
(8) 郵便局長の各種資格取得の軽減
と記されている。
そして「引続き検討していただきたい事」の9項目は、
(1) 旧普通局における郵貯直営店の郵便局会社への移管、
(2) 幹部養成訓練(郵政大学校本科)の再開、
(3) 郵便集配人による貯金業務の取扱い再開、
(4) 集配特定局のゆうゆう窓口の再開、
(5) 集配再編により無集配化された旧集配特定局の集配機能復活、
(6) 郵便局による郵便集荷の実施、
(7) 職員の地元採用、
(8) 非正規職員に対する年賀状販売ノルマの廃止、
(9) その他
―が書き連ねられているのだ。
これでは、日本郵政グループは、連立与党の一角を占める国民新党に経営権を握られた形であり、特殊な政府機関として扱われているも同然である。
このレターに掲げられた要求は、政府与党自身が昨年10月20日に閣議決定した「郵政改革の基本方針」(「郵政事業の機動的経営を確保するため、株式会社形態とする」と明記していた)や、大塚耕平郵政改革担当副大臣が2月8日に連立与党の「郵政改革政策会議」に示した郵政改革基本法案の素案(経営は「日本郵政グループが自主的に経営判断に基づいて行う」と明記していた内容に明らかに反する。
さらに補足すると、国民新党が日本郵政にこうした要求書を提出するのは、実は昨年11月27日に続いて、これが2回目である。
三井住友銀行出身の西川善文社長時代、日本郵政グループの経営陣は再三、現場の特定郵便局長たちの要望を無視してきた。このため、最初のレターにおける国民新党の要求には、現場の管理職の声を代弁する趣旨のものが多かった。
これに対して、3月4日付の第2弾に盛り込まれた要求は、非正規職員の正規化、職員の地元採用、物品の地元調達など、本来は経営が独自判断で決定すべきことを多く掲げているのが特徴だ。そして、これらの要求を実現させることによって、国民新党が参議院選挙へ向けて支持基盤を拡大しようと目論んでいることが透けて見える。
20年以上前の自民党政権時代には、政府が景気対策を打ち出す際に、「総合経済対策」などという触れ込みで、電力会社やNTTが設備投資の前倒しなどを迫られた時期があった。国民新党は今なお、水面下で、こうした古い自民党のような要求を平然と、民営化した企業に突きつける体質を有しているというわけだ。