大ヒット降圧薬「ディオバン」(一般名「バルサルタン」)の臨床研究に関連して、京都府立医大が今月半ばに公表した再調査報告でもねつ造の可能性を否定できなかった。この問題は、かねて指摘されていた薬価制度の欠陥を改めて浮き彫りした。
データ捏造というゆがんだ競争の背景には、厚生労働省が新薬の薬価を低めに固定して、製薬メーカーに自由な価格の設定(投資回収戦略)を認めない現状がある、という見方が医療関係者の間に広まっているのだ。
その指摘によれば、日本の薬価制度は特許の有効期間中に膨大な新薬の開発コストを回収することを難しくしているという。このため、特許切れ後も新薬の値崩れを防ぐ必要が生じ、「安さ」が最大の売りであるはずのジェネリック医薬品の薬価まで高めに設定せざるを得ない悪循環に陥っている。
この構図のために、何年経っても薬価があまり下がらない仕組みができあがり、国民医療費に占める薬代を突出させる元凶になっている。
それだけに、今回のねつ造疑惑の解決には、関係者の責任追及だけでは不十分だ。我々の負担を押し上げている健康保険の薬価制度の抜本改革を避けて通ることのできない課題として突き付けた格好になっている。
「ディオバン」は血圧を引き下げる効果を持つ高血圧治療薬で、製造・販売元のスイス系製薬大手ノバルティスファーマの収益を支える大黒柱になっている。日本では2000年11月に発売された。ノバルティス日本法人の2012年の売上高は3234億円で、ディオバンはその3分の1程度を占める稼ぎ頭だ。月並みな降圧薬と異なり、脳梗塞や心筋梗塞を予防する効果を持つという臨床研究の存在が、人気の背景にあった。
ところが、最初の調査を不十分とする外部からの指摘を受けた京都医大が今月11日、ディオバンの臨床研究に関する再調査を発表。調査可能な223例を検証したところ、大元になる患者のカルテと検証用のデータの間に34例の食い違いがあったとして「データ操作があった」と結論付けた。しかも、臨床研究の核心だった「脳卒中や狭心症など心血イベントの発生率を下げる効果とした結論は、今回の調査から支持されなかった」と断定している。
それにもかかわらず、同大学やノバルティスは依然として、「データの操作」が「意図的なねつ造」か否か断定できないとしているという。特にノバルティスは29日夕方の記者会見でも「意図的な操作や改ざんを示す証拠は見つからなかった」と説明した。
しかし、そもそも、ノバルティスの社員であることを伏せて大阪市立大学非常勤講師の肩書きでデータの解析を担当した元従業員の行為は明らかな利益相反として断罪されるべきものだ。退職しているとはいえ、この元従業員に京都府大の調査に直ちに協力させなかったことも、常識のある企業の対応とは思えない。生温い調査を公表した大学の自浄能力にも疑問符を付けざるを得ないだろう。
加えて、東京慈恵会医科大学、千葉大学などの臨床研究でも、同種の疑惑が指摘されている。このため、全体としての調査もなお不十分で徹底的な解明と責任の追及が必要とされている。