少し前から『Yコンビネーター シリコンバレー最強のスタートアップ養成スクール』(ランダル・ストロス著・滑川海彦他訳、日経BP社)という本が話題になっている。起業環境として世界最高とされている米シリコンバレーで、いったいどのようにして若い起業家が育成されているのかを実に生々しく描いたノンフィクションだ。
「Yコンビネーター」というのはベンチャーキャピタルの名称だ。非常に特異な起業育成プログラムで有名で、2万ドルという少額の資金を提供するだけだが、そのかわりに3か月にわたって起業家たちをシリコンバレーに住まわせ、集中的に指導し、プログラム卒業の際には著名なベンチャー投資家たちの前でプレゼンテーションを行わせる。この儀式を無事通過すれば、新たな資金が調達でき、さらに飛躍できるという仕組みになっている。
この本を読んで再認識させられるのは、その過程が決して華やかでカッコいい世界ではないということだ。映画『ソーシャルネットワーク』などで描かれるようなクールなものではない。みな必死で地に這いつくばってビジネスプランを考え、食事も忘れて仕事に没頭し、だめ出しをされて打ちのめされる。そういう苦闘から新しいビジネスが生まれてくるということなのだろう。
ひるがえって日本はどうか、と考えさせられる。起業家や技術者の優秀さでは米国にまったくひけをとっていないと思うが、それを支え、起業してから離陸させる環境があまりととのっていないという問題がある。