二宮寿朗「関塚ジュビロ、名門復活なるか」

二宮 寿朗 プロフィール

「見て、話す」ことの重要性

「見て、話す」――。彼が著書の中で山口螢(セレッソ大阪)に対して語っていた部分を思い出した。代表チーム立ち上げ当初の山口の印象は<内気で、自己主張の苦手なタイプに見えた。初めのうちは目を見て話せるタイプではなかった>。しかし、所属のセレッソ大阪で出場機会を増やして自信を深めていくうちに、関塚とも目を合わせて話すようになったという。関塚が山口をしっかりと観察し、コミュニケーションを取っていたからこそ、こうしたささいな心の変化に気づくことができたのだと言える。

 関塚に「見て、話す」ことの重要性を尋ねたことがあった。彼は柔らかい表情を浮かべて、こう言った。
「観察して、会話をすることで選手のスタート時点の情報が分かると、彼らがどう変化しているのかも把握できますよね。たわいもない会話だったり、表情を見ておくことも自分のなかで大切にしています」
 理論派の関塚は戦術の部分でも細かく教え込むタイプだ。しかし、彼は理論のみならず、目配りと心配りも大事にしていた。

 強豪に仕立てた川崎フロンターレでも、ロンドン五輪でもそうだった。選手一人ひとりに万遍なく声をかけ、心と体の状態をチェックする。「調子はどうだ?」とばかりに腕組みをしながら近づいていく。ロンドン五輪でチームが躍進した立役者であり、今やザックジャパンの常連となっている清武弘嗣も「関さんは選手一人ひとりのことをすごく考えてくれて、気を配ってくれる方」と語っていた。「見て、話す」こだわりが、戦術をより浸透させ、一体感のあるチームをつくってきたとも言えるだろう。

 もちろん送るのは温かい視線ばかりではない。ロンドン五輪では、レギュラーを奪いたいという気持ちが強くなりすぎて個人プレーに走りがちになる選手もいた。そういった選手にはコミュニケーションを取って納得させたうえで自分目線のプレーから、チーム目線のプレーに切り替えさせている。問題が大きくならないうちに対処する“早期発見、早期治療”も、双方間の意思疎通が図れているからに他ならなかった。