【事実関係】
7月3日夜(日本時間4日未明)、エジプト軍最高評議会のシーシ議長(国防相)は現行憲法の効力を停止し最高憲法裁判所のマンスール長官が暫定大統領に就任すると国営テレビを通じて発表した。
【コメント】
1.
去年6月の大統領選挙で当選した「ムスリム同胞団」のムルシ大統領は、シーシ議長が憲法の効力停止をテレビで発表した時点で、既に軍によって拘束されていた。本件は、民主的手続きによって成立した政府を軍が超法規的に転覆させたクーデターである。
3.
クーデターとは、通常、民主主義勢力を軍が力で抑え込むことを指す。しかし、エジプトの場合、民主的選挙によって選ばれたイスラーム主義政権が、国民の自由を圧迫し(特にコプト派のキリスト教徒に対する弾圧)、また、イスラエルとの外交関係を緊張させ、地域情勢を著しく不安定にしていた。
4.―(1)
エジプト軍は単なる軍事専門家の集団ではない。軍事産業のみならず航空産業、建設業、観光業などにおいても軍が利権を握っている。エジプトではムルシ氏以前のすべての大統領(ナセル、サダト、ムバラク)が軍出身だ。過去4回の対イスラエル戦争での従軍経験などを通じ、エジプト国民の中で軍は世俗主義的で政治的中立的な集団であるという評価が国民の間で定まっている。「アラブの春」でムバラク氏が大統領から追われたのも軍が同氏を見放したからだ。
4.―(2)
露国営ラジオ「ロシアの声(VOR)」が7月6日に放送したアンドレイ・スミルノフの以下の論評が興味深い。
<アラブ諸国での革命の鍵を握る要素は軍部である。この事は、つい先日のエジプトでの出来事が裏付けた。在野勢力の動きに無関心であったように見えたエジプトの将軍達が、突然イニシアチブを取ったのだ。分析専門家らは、これは予想された事だったと見ている。大部分のアラブ諸国の政治生活において、軍部の役割は、伝統的に大きいのだ。・・・・・・(略)
5.―(1)
エジプトでは「アラブの春」により権威主義的なムバラク政権が倒された結果、民主的選挙が行われた。この選挙を通じてイスラーム主義者が権力を握り、世俗主義的な自由が急速に制限され、少数派に対する弾圧が起き、民主政治の定着が一層遠のく「アラブの春」のパラドックスが生じた。そして、イスラエルや欧米など自由と民主主義という価値観を持つ諸国との外交関係が緊張した。この傾向は、エジプトだけでなくアラブ諸国に共通して見られる。