[裏方NAVI]
ニッタク(日本卓球)<前編>「『佳純ベーシック』で世界の8強」

スポーツコミュニケーションズ

共同開発の背景にある“貢献”

 しかし、威力を重視したラケットだけが世界に通用するかというと、決してそうではない。それを証明したのが、石川本人である。09年、ニッタクは一般者向けのラケットを商品開発した。それは石川の「これから卓球を始める子どもたちにも、本格的なラケットを使ってほしい」という要望により、彼女との初めての共同開発によって作られた「佳純ベーシック」である。初心者にも使いやすい5枚合板をベースとし、コントロール性能の高い「佳純ベーシック」は、攻守どちらにも対応したバランスのいい仕上がりとなっている。グリップ部分のマークやラインに石川の好きなオレンジを配色するなど、細かな部分まで石川のこだわりが詰まっている。

 出来上がった「佳純ベーシック」を手にした石川は、非常に満足していたという。そして数日後、こう言った。
「私、このラケットを使いますよ」
 これには開発者たちも驚きと共に喜んだ。「佳純ベーシック」は共同開発ではあったがその時点では一般者向けのラケットを想定していたからだ。それを世界を相手に戦うアスリートの石川が、試合で使用すると言うのだ。

09年、「佳純ベーシック」で石川選手が世界の8強入りした時の思い出を語る松井課長

 実際、石川は「佳純ベーシック」で試合に臨んだ。そして、その年の5月に横浜で行なわれた世界選手権で、石川はベスト8進出を果たしたのである。彼女の左手には、「佳純ベーシック」がしっかりと握られていた。その時のことを、松井課長はこう振り返った。
「私も会場で見ていたのですが、本当に嬉しかったです。開発担当した『佳純ベーシック』で世界のベスト8に入ったのですから、開発者冥利に尽きるという感じでした。彼女自ら『佳純ベーシック』が世界でも通用するほどのラケットだ、ということを証明してくれたんです」

「卓球界に貢献する」――ニッタクの企業理念だ。石川もまた、一般者向けのラケット開発を要望した背景には自身の競技のみならず、普及への強い思いがあったのだろう。そして本気でこだわり抜いたからこそ、自ら愛用するにまで至ったのではないか。つまり、「佳純ベーシック」にはニッタクと石川の卓球への情熱が詰まっている。

(後編につづく)

(斎藤寿子)