佐々木芽生 第2回 「コジロウの死後、わたしを一人にさせられないと真剣に悩んでいた猫のムサシ」

島地 勝彦 プロフィール

 おれは遅刻の常習者で、ホームルームは小中高ほとんど受けたことがない。寝坊の原因はおまえはわかっていると思うが、夜遅くまで布団のなかで本を読んでいたからなんだ。

 一方おまえは毎夜12時になると、おれの隣でアクビをして起き上がり、夜の散歩に出かけて行った。障子の桟を4つも外してやっていたから、おまえは軽がる抜け出せたが、あの穴は冬は寒かった。でもおまえのためにはあれくらいの犠牲は何とも感じていない。だっておまえは可愛いヤツだったからさ。それにおまえはいつの間にかおれの隣で寝ていたものだ。

 おまえは珍しい猫で風呂好きだった。よくおれと一緒に入ったね。お湯に濡れたおまえは意外に小さくみえたぞ。やっぱり毛が多かったんだ。おれは大人になっても寝坊が直らなかったが、気がつくと編集者になっていた。いま新宿伊勢丹でサロン・ド・シマジというシガーバーのバーマンをやっている。どちらも遅くまで寝ていられる仕事だ。

 おまえに告白したいことがある。おれはベッピンを探して女の旅に出て多くの女と同衾したが、猫はおまえ以外知らない。女は多穴主義だったが、猫は一匹主義である。おまえと似たような猫を何度も飼おうとしたが、どうしてもおまえの顔や仕草を思い出して飼えないのだ。おまえはおれの弟だ。いや素敵な兄貴だったかもしれない。

 オフクロに聞いた話によると、おれが上京してから、おまえは家族のだれの布団にも入って行かなかったというじゃないか。それでいておまえはおれが帰省して実家に帰ると、ちゃんとおれの布団に入ってきてくれた。本当にチャコは可愛いヤツだった。会いたいよう、チャコ 〉

シマジ セオ、有り難う。

セオ チャコってシマジさんの分身みたいなものですね。

立木 セオ、ご苦労さま。疲れたろう。ここでネスプレッソ・ブレークタイムを入れようか。

セオ 有り難うございます。たしかに喉が渇きました。

佐々木 わっ、うれしい。またカプチーノをいただけるんですか。

セオ そうです。

佐々木 それにしてもシマジさんの異常な猫好きには畏れ入りました。チャコへの鎮魂歌、素敵ですね。ニューヨークに帰ったら、サイキックな友人に頼んで、チャコを天国から呼んでもらって、知り合いのストリート・アーティストにチャコの肖像画を描いてもらいましょう。今度帰国するときに持参しますね。

シマジ えっ、本当ですか!? それはワクワクします。チャコに似た絵が出来上がるような予感がします。チャコだったら太平洋くらいひとっ飛びで、すぐにニューヨークに現れるでしょう。そのサイキックなチャコの肖像画をサロン・ド・シマジの本店に飾りたいですね。